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「1番、羽生結弦さん」“企画もプロデュースも出演も”羽生結弦…記者が驚いたプロ初のアイスショーの中身「まさか90分を1人で…」
posted2022/11/08 17:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Asami Enomoto
スタンディングオベーション、歓声、拍手……。
賛辞はとどまることを知らないかのようだった。
11月4日、羽生結弦のアイスショー「プロローグ」が開幕した。同日と5日に横浜、12月2、3、5日に八戸と計5公演が予定されている。
7月19日、プロ転向を表明した羽生の、プロとしての最初のアイスショーは、会場内に、金字塔と言ってよい世界を描いた。
「自分の中ではこれから始まる物語に向けてのプロローグであり、すごい抽象的な話になってしまうかもしれませんけれど自分がまた新たに決意を胸にして、目標に向かって、夢に向かって一歩ずつ進んでいくんだということを、自分が経験してきたことだったり、皆さんに力をもらってきた事柄だったり、そういったものをあらためて皆さんと共有しながら次のステップにつながるようにという思いを込めて企画、構成しました」
終了後に企図を明かした。自らプロデュースしたショーは圧巻と言ってよかった。まずは構成や内容そのものが見事だった。
試合同様の緊張感、起きた観客の拍手
スタートから鮮烈な印象を残した。青を基調とした照明のもと、開演時刻が近づく。
羽生がリンクに姿を現す。すると思いがけないアナウンスが流れた。
「ただ今より6分間練習を開始します」
白光のもと、羽生はウォーミングアップを始める。ルーティーン、そこにある緊張感も試合同様であった。
バックグラウンドで音楽が流れている。やがてそれが『天と地と』であることに気づく。プログラムのものは6分には満たない。おそらくは今回のために新たに用意したバージョンだろう。手抜かりのない、細かなこだわりがあった。
やがてジャージを脱ぐと観客席から拍手が起きた。姿を見せたのは『SEIMEI』の衣装だった。
6分間練習の時間が終わる。
再びアナウンスが流れる。
「1番、羽生結弦さん」
大きな拍手の中、スタートポジションにつく。演技が始まる。冒頭から4回転サルコウや4回転トウループ、トリプルアクセルを決める。後半にはトリプルアクセル-トリプルトウループ、トリプルアクセル-1回転-トリプルサルコウを跳んでみせた。試合ではルール上行わない、トリプルアクセル3本を交えた。ジャンプもさることながら、密度の濃さに、どれだけこのプログラムを大切にしているのかが伝わってくる。