オリンピックPRESSBACK NUMBER
「姉からの言葉で考え方が変わりました」長距離界の新星・不破聖衣来はなぜ“昨年より1分39秒遅れ”の区間賞を喜んだのか「“楽しんで走る”が目標でした」
posted2022/11/04 17:03
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph by
JIJI PRESS
「まずは全日本大学女子駅伝を、また5区(の走者)として走ることができたことに喜びを感じていて、順位も上げてタスキを渡せたことを嬉しく思っています」
レース後、開口一番、そう語るのは拓殖大学2年の不破聖衣来。昨年の全日本大学女子駅伝5区の9.2kmを28分00秒と、1分14秒も区間記録を更新する衝撃の区間新を打ち立てた“スーパールーキー”は10月30日、今年は2年生として同区間を29分39秒で走り、区間賞を獲得した。記録としては1年前のタイムには1分以上及ばなかったが、不破はなぜストレートに喜びと嬉しさを表現したのか。
9月のインカレに出られたことも自分の中では奇跡
その理由の一端は臨戦過程にある。昨年12月には10000mの日本歴代2位記録(当時。30分45秒21)をマークしたが、今年に入りアキレス腱痛や股関節痛などケガに悩まされていた。
彼女の長所である、上半身がブレなく大きな一歩で前へと進むフォーム、一般的な成人の平均が60〜80とされる心拍数が30〜40という抜群の数値を誇る心肺機能、そして何よりも走りたいという気持ちが、体重30kg台の身体には抱えきれなくなっていた。
今年4月に出場した日本学生個人5000mでも本調子とは程遠く、最下位でゴール。約5カ月ぶりの実戦復帰となった9月の日本インカレ10000mでは優勝したが、その後もなかなか調子は上がってこなかった。本人が振り返る。
「インカレに出られたことも自分の中では奇跡だと思っていました。優勝もできたことが身体には負担となっていた部分もあって、インカレが終わった後、疲れがいろいろ重なって、駅伝の2週間前までずっと不調で。正直なところ、駅伝を諦めなきゃいけないくらいの状態でした。なので、駅伝というのは出られると思っていなくて……」
不調が続くも、直前で見せた「別人のような走り」
200m×10本の練習では200mを45秒前後で走り、10000mのベストタイムから1kmあたり20秒ほど遅く、良い時の自分とは程遠い現状を突きつけられる日々が続いた。
「でも、やっぱり自分の中で出たいという思いが強かったんです」