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「姉からの言葉で考え方が変わりました」長距離界の新星・不破聖衣来はなぜ“昨年より1分39秒遅れ”の区間賞を喜んだのか「“楽しんで走る”が目標でした」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byJIJI PRESS
posted2022/11/04 17:03
全日本大学女子駅伝の5区9.2kmを走り、区間賞を獲得した不破聖衣来。タイムとしては昨年より1分39秒遅かったが、不破の口からは前向きな言葉が出てきた。その理由とは…?
不破が右手小指に装備した新たな“勝負アイテム”
ビルとケヤキが立ち並ぶ青葉通りを不破は悠然と駆け抜けていく。期待の拍手が橙色のユニフォームを身にまとったランナーに目がけて送られる。その両耳には定番となっている、昨年コーチからもらった「勝負ピアス」が、そして右手小指には新たな“装備品”が光り輝いていた。
前半5km通過時点では区間個人3位の16分25秒。上り坂のある後半も苦にせず、とらえた相手に視線をやることなく1人、また1人と抜いて最終的に4位でタスキを繋ぐ。
終わってみれば29分39秒のタイムは区間2位と26秒差の区間賞。チームは総合5位となり、最大目標の3位以内には届かなかったものの、来年の出場を確定させるシード権を確保した。
つらいところももちろんあったんですけど…
レース後、報道陣の前に姿を現した不破は大満足という笑みではないが、どこか今の自分に納得しているような落ち着いた表情を見せていた。なんとかこの舞台にたどり着けた喜び。過去の自分にとらわれず現在の100%を出せた嬉しさ。そして周囲の期待を力に変えて走りきれた達成感がその表情に同居しているようだった。
「つらいところももちろんあったんですけど、そのつらいところで、沿道から応援の声が聞こえてきて、そのおかげで9.2kmを走り切ることができました」
仲間と走れば、それを力に変えて別人のような走りを見せ、相手選手に追いつかれたと思えば、ギアを変えた走りで一気に突き放す。本調子と言えない状態でも大舞台になんとか間に合わせてみせ、新たな装備品を手に、プレッシャーのように感じる沿道からの声も力に変え、誰よりも速く駆け抜ける。その姿はさながら漫画の主人公のようだ。今後は12月の記録会での10000mの記録更新を目標に見据える。一体、次の1ページにはどのようなエピソードが待っているのだろうか。
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