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「姉からの言葉で考え方が変わりました」長距離界の新星・不破聖衣来はなぜ“昨年より1分39秒遅れ”の区間賞を喜んだのか「“楽しんで走る”が目標でした」 

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齋藤裕

齋藤裕Yu Saito

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photograph byJIJI PRESS

posted2022/11/04 17:03

「姉からの言葉で考え方が変わりました」長距離界の新星・不破聖衣来はなぜ“昨年より1分39秒遅れ”の区間賞を喜んだのか「“楽しんで走る”が目標でした」<Number Web> photograph by JIJI PRESS

全日本大学女子駅伝の5区9.2kmを走り、区間賞を獲得した不破聖衣来。タイムとしては昨年より1分39秒遅かったが、不破の口からは前向きな言葉が出てきた。その理由とは…?

 復調の兆しとなったのは、19日にチームで行った1km×6本の練習だった。拓殖大学の五十嵐利治監督はこう語る。

「本人が『練習に混ざってやってみたい』と言ってきたので、やってみようかと走ったら別人のような走りを見せたんです」

 不破にとってチームメイトは大きな存在だった。ケガなどによってチームから離れて練習を行った時期もある19歳のエースは、日本テレビのインタビューにこう語っている。

「(チームに)帰ってきた時にいろんな言葉をかけてくれて、すごい自分の中で元気が出ました。みんながいる場所があるから安心して、1人でも頑張れるのかなと思います」

 だからこそ不破は「支えてくれた人たちに結果でしっかり恩返しをしたい」と、なんとか杜の都の舞台に戻ってきた。

不破の状態は「3、4割」だった

 第4中継所、不破は4区の門脇奈穂(2年)から7位でタスキを受け取る。

 晴れた秋空の元、サングラスを着けた小柄な大学2年生が大きなストライドで駆けていく。スタートラインに立った不破が感じた自身の状態は「3、4割」。それでも、その走る姿を一目見ようと仙台駅西側の市街地の沿道には、観衆が期待の思いで不破が目の前に来るのを待ち構えている。

 スタートから700mを過ぎたあたりで、中継所では4秒後方にいた関西大学の飯島果琳(3年)がその差を詰め、横に並びかける。その展開は昨年、区間記録を大幅に更新したレコードホルダーの“異変”を物語っていた。

「不破は走れないのか」

 スマートフォンを掲げる沿道の観客から心配するような視線が19歳のエースランナーに向けて投げかけられる。

 レース前、五十嵐監督は大きく注目を集める不破にのしかかるプレッシャーについてこう語っていた。

去年のタイムを、走りをと思ってしまうところはあった

「間近にいる人はいろんなことを知りながら、結果に対しても『今はこういう状態だからこれくらいでいいよね』というのはわかる。けど、一般の応援してくださる方の多くはその試合だけを見ているわけじゃないですか。だから試合に出ていると、当たり前のように100%を求める。その100%というのも(選手の)良い時に比べての100%を求める。そういった期待に応えなきゃいけないと(不破が)プレッシャーに感じている部分は、一緒にいる中で僕自身感じていました。ただ、一番大事なのはいい時に対しての100%を出すよりも、その時出せる100%を出すことだと思うんですよ」

 不破自身もこう感じていたという。

「出るとなった時は、やっぱり去年のタイムを、走りをと思ってしまうところはあったので、自分ですごく意識はしていなくても、心のどこかで意識していたのかな、と」

 だからこそ五十嵐監督と不破は、タイム設定をせず、「楽しんで走る」ことだけを目標にこのレースに臨んだ。

【次ページ】 絶対順位は下げないという思いは常に頭の中にあった

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