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「姉からの言葉で考え方が変わりました」長距離界の新星・不破聖衣来はなぜ“昨年より1分39秒遅れ”の区間賞を喜んだのか「“楽しんで走る”が目標でした」
text by
齋藤裕Yu Saito
photograph byJIJI PRESS
posted2022/11/04 17:03
全日本大学女子駅伝の5区9.2kmを走り、区間賞を獲得した不破聖衣来。タイムとしては昨年より1分39秒遅かったが、不破の口からは前向きな言葉が出てきた。その理由とは…?
絶対順位は下げないという思いは常に頭の中にあった
800mを過ぎ、ついに関西大の飯島に並ばれる。視線を横に移すことなく、ただ前だけを見て走る不破だったが、内心ではこう思っていた。
「ゆっくり入ったつもりはなくて普通に走っていたら追いつかれてしまった。楽しんで走る以上、もらった順位よりは落とせないというのはあったので、絶対順位は下げないという思いは常に頭の中にありました」
その「順位を落とせない」という最低ラインを脅かす相手が隣に現れたことで、走りのギアが徐々に上がっていく。
並走する2人の横に1kmを示すボードと左へと曲がるカーブが現れる。飯島は一瞬、右手で左腕の腕時計のボタンを押し、視線を落とす。その刹那、カーブの内側にいた不破はジリジリと飯島を突き放す。ペースを上げた不破の手首に腕時計はなく、ただ前だけを見つめている。他の選手たちが水色、白色、ピンク色と思い思いの腕時計をつける中で、不破の手首を縛るものはなく、縛られるタイムもなかった。
不破は大勢の観客が待ち受ける仙台のメインストリート、青葉通りへと足を踏み入れていく。
注目されることについての姉からのアドバイス
記録を意識せず、自分の心のありようとして「楽しんで走る」ことはできたとしても、沿道からの応援や期待の視線はプレッシャーにならなかったのだろうか。本人はこう明かす。
「『注目していただけるのはありがたいことだよ』と姉から教えてもらいました。最近不調の時に、取材とかもあったりして『なんで来るんだろう』と思ってしまっていました。ただ姉からそういったアドバイスをもらい、考え方が変わりました」
不破にとって実業団「センコー株式会社」の選手である姉の亜莉珠(ありす)さんは「小さい頃から憧れ」という存在。8月には、お互いの合宿地が同じ熊本県阿蘇市だったこともあり、一緒に並走して阿蘇の道を走った。思うように走れない苦しい時期も姉と会話を重ねたことで、考えも気分も変わっていく転機となった。そんな姉との約束の品が“決意の朝”に届く。
「ピンキーリングが仙台に向かう出発日に届きました。もともと姉とお揃いのリングを私の3月の誕プレ(誕生日プレゼント)として買いたいという話になっていたんですけど、なかなか一緒に行く機会がなくて、やっと夏に2人で一緒に選びに行けました。ただ、そこで自分のサイズがなくて、受注生産で届くのを待っていて……出発日の午前に奇跡的に届いたんです。ピンキーリングには『自信をつける』という意味もあって、少しでもお互いの自信になったらな、と」