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内村航平「羽生(結弦)君も同じことを言っていて」冨田洋之「イチローさんと…」体操の天才2人が語る“トップアスリートの共通感覚”
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/11/02 06:00
冨田洋之と内村航平。レジェンド2人が体操の深淵について語り合った
内村 どちらもあると思いますが、やっぱり経験することで強くなれたと思います。僕は演技の通し練習を、あえて準備運動なしでやったりしていました。あれは自分にプレッシャーをかけるためでした。
冨田 重圧を乗り越えようと?
内村 はい。人がやらないことを取り入れていました。熱が38度ある時に練習するとか。そんな状況でもミスしないかどうか、検証していました。
冨田 それはやりすぎ(笑)。でも、調子が悪い時でも演技できるかどうか確認するのは大切だよね。いい時はできて当たり前だから。内村の時代、日本は団体総合で勝てそうで勝てない時期があった。でも、リオではアテネ以来の金メダルが取れた。勝つためには何が必要だった?
内村 洗脳です(笑)。
冨田 いろんな言葉で仕向けるということ? それをキャプテンとしてやっていたの。
内村 はい。冨田さんは口で言うタイプではなかったじゃないですか。だから僕も最初はそれを真似したんですけど、誰もついてこなかった。それで代表の最初の合宿で、行きつけの焼き肉屋にみんなを連れて行くようになりました。冨田さんとは全然違うやり方になりましたけど(笑)。
イチロー、羽生結弦と共通する思考がある?
――お二人もそうですが、トップアスリートには共通する考え方があると思います。現役時代、他競技の選手から共通点を感じたことはありますか?
冨田 体操競技は、誰にも邪魔されずに一人で演技をするのでシンプルに考えやすい。野球や相撲のように対戦相手がいる場合は別の難しさがあると思います。ただ自分を客観的に見るという部分では、イチローさんに共通する思考を感じたことがあります。
'09年のWBC決勝の韓国戦で、同点の延長10回の好機で打席に入る際、重圧をはねのけるために心の中で自分自身の実況をしたと聞きました。僕も何かを突き詰めていく中で分からない部分が出た時、外から自分を眺めてみることはしていました。壁にぶつかったら立ち止まり、自分を客観的に見ることが大切なんだろうなと。
内村 僕は他の採点競技の選手の話を聞くと、共通する部分を感じます。採点される側ではあるけど、結局は自分の演技が一番大事だし、練習したことを出し切ることが重要。フィギュアスケートの羽生(結弦)君も同じようなことを言っていて、そこは一緒だなと。
冨田 羽生選手は、シンプルに考えているんだろうな。自分がコントロールできることに集中しながら、周りのことも見えている。どう見られているのか、どう見せていけばいいかまで意識しているように見える。