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内村航平「羽生(結弦)君も同じことを言っていて」冨田洋之「イチローさんと…」体操の天才2人が語る“トップアスリートの共通感覚”
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byKiichi Matsumoto
posted2022/11/02 06:00
冨田洋之と内村航平。レジェンド2人が体操の深淵について語り合った
内村 羽生君のクワッドアクセルを、実は繰り返し動画で見ています。彼のジャンプは他の選手よりも回転がちょっと速くて、着氷する前に一瞬パッと止まるように見える。体操選手にしかできない見方かもしれないけど、そういう見せ方をしていると思うんですよ。僕も鉄棒の降り技で、早く回転を終えて一瞬止まったように見せることにこだわっている。
冨田 確かに。回転の鋭さにはもちろん目が行くけど、ジャンプの「納め方」が人とは違うよね。その後にどう滑るか、どう見せるかを含めてジャンプしている。ジャンプの入り方も、細部までこだわって演技しているのが分かるし、それがファンの気持ちを鷲づかみする演技になるんだろうな。
体操競技を芸術に例えた真意とは
――お二人は演技を「作品」や「絵画」と言っていましたね。体操競技を芸術に例えた真意を教えてください。
冨田 一つ一つの技を演じるというよりも、開始から着地まで全ての動きが一つのまとまりとなる表現を追い求めていたので、「作品」という言葉の表現の方が自分の中でしっくりきていました。だから得点はひとつの評価ではあるんですけど、「キレイ」とか「重力がないみたい」とかいろんな視点からの感想という評価を聞けたときの方がうれしかったですね。
内村 僕も一緒ですね。冨田さんの演技って、玄人が見ても素人が見ても「何か違うな」と思えるんですよ。僕もそれを目指していて、違いを出すことを意識していました。演技中、どの場面を写真に切り取られても「絵」として成り立っていることが大事だと思います。
冨田 感想が聞けてうれしいな(笑)。もっともっと、僕らと同じような考えで体操競技をやる子が増えてくれたらいいね。
体操競技は五輪の花形として居続けないといけないですから
――内村さんは今年3月に引退されたばかりですが、今後はどういうプランを?
内村 具体的に見えていることは、正直あまりないんです。でも、自分には体操しかないので、「体操なんでも屋」でもいいかなと。イベントで体操を教えてもいいし、講演で自分の考え方や体操の魅力を伝えたり、試合で解説者を務めることもありだと思っています。東京五輪が終わり、他のスポーツと同様に体操界もちょっと苦しんでいますが、何ができるかを日々考えています。これからも体操競技は五輪の花形として居続けないといけないですから。
冨田 体操は、試合の見せ方を工夫しないと、競技だけでは成り立たなくなってきている。内村の引退イベントは新しい試みだったし、ああいう成功例に続くものをぜひやってもらいたいね。体操競技は練習をやめるとすぐにできなくなるから、引退した選手がそう簡単には出られない難しさがあるけど。内村には体操の価値を高めるため、後進のためにできることをしてほしいね。
内村 もちろん、やらないといけないし、責任はすごく感じています。でも体操の練習とは違って難しいです(笑)。中途半端にはやりたくないんですよ。もう少し考え続けて、それが見えてきたら一気にやっていきたいと思っています。
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