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「背後からスゴい速さで…」アントニオ猪木が徹底した“多摩川の早朝ラン”、クソ真面目な鍛錬が「猪木プロレス」に必要だった理由
posted2022/10/03 17:00
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph by
Makoto Kenmizaki
アントニオ猪木さん(以下敬称略)が本当に旅立ってしまった。久しくお会いしていなかったのだが、この喪失感たるや……。
猪木は常日頃、若い選手たちや、われわれマスコミを相手にも「もっと馬鹿になれ!」「最近の連中はどうも真面目すぎるんだよな……」と苦言を呈していたものだ。だが、ことプロレス、それもリング上ではなく練習に関しては徹底的にクソ真面目な人だった。
55歳で迎えた引退試合当日(1998年4月4日)まで、朝のランニングや長距離散歩から始まり、徹底したストレッチなど念入りな練習を怠らなかった。食事や水分の摂り方など、常に多方面にアンテナを張り、自身の肉体を使って人体実験しており、レスラーではないわれわれにもレクチャーしてくれることが多々あった。
猪木が「スタミナ」を重視した理由
プロレス稼業において、必要な体力とは実にさまざまだ。
極端な話、まったく鍛錬などしていなくとも、身長が3mとか、体重が300kgとか、頭の骨が鉄よりも硬いとかであれば、それだけで大きなウリにもなる世界だ。鍛えるべき体力としても、パワー、柔軟性、技術etc.とキリがないのだが、猪木が自身に課しつつ、口を酸っぱくして後進に推奨していたのが「スタミナ」だった。パワーも柔軟性も技術も重要だが、それらすべてのベースとなるのがスタミナというわけだ。
相手の攻撃を最大限に受け切り、それを上回るパフォーマンスで相手を倒し、観客を掌に乗せて熱狂させる「猪木プロレス」を成立させるには強靭なスタミナが必要。対戦相手よりも先にバテてしまったら元も子もない。猪木が北朝鮮など自由がきかない海外の地でさえ、常にランニングを欠かさず「スタミナ必要論」を説くのも当然だった。