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ネイマールやブラジル人が激怒+エール「ドリブルし続けろ、踊り続けろ!」 ビニシウスを襲った“人種差別”…過去にはロベカルやフッキらも
text by
沢田啓明Hiroaki Sawada
photograph byDaisuke Nakashima
posted2022/09/28 17:01
レアル・マドリーで急成長し、W杯でも活躍が期待されるビニシウス・ジュニオール。彼が“人種差別問題”に襲われている
この試合でビニシウスのゴールはなかったが、もし点を取っていたら踊っていたに違いない。その場合、アトレティコの選手とサポーターの反応はどうなっていたか。
非常に嘆かわしいことだが、コケが予言したように「タダでは済ま」ず、最悪の場合は乱闘になっていたかもしれない。
試合後、ビニシウスは自身のSNSにロドリゴと一緒に踊る写真を投稿。「僕は自分が踊りたいときに踊るよ」とコメント。アトレティコもクラブ公式サイトで当該サポーターの振る舞いを非難している。
代理人の発言に潜む、2つの論点
スペイン人代理人の発言に話を戻すと、少なくとも2つの論点があると考える。
1)ゴールを決めて踊ることは、対戦相手の選手を侮辱する行為なのか。
2)世界のフットボールにおける人種差別、外国人嫌悪はどのくらい根深いものなのか。
1)に関しては、ダンスが相手を侮辱するようなものでない限り、筆者はそうは思わない。フットボールは手よりずっと不器用な足と頭でボールを扱うスポーツだから、なかなか点が入らない。それだけに、苦労の末に相手ゴールをこじ開けたときの喜びは大きい。
選手によってはそれが絶叫であったり、ペレのように高々と飛び上がって右手で空を叩くことだったり、ロナウジーニョやネイマールやビニシウスのように踊ることであったりする。
1990年のワールドカップで、カメルーン代表ロジェ・ミラがコーナーフラッグ周辺で腰をくねらせて踊ったことが対戦相手への侮辱に相当したとは思えない。あの光景は、世界中のフットボールファンの脳裏に、そしてフットボールの歴史の中に刻み込まれている。
ダンスを含むゴール・セレブレーションは、フットボールの一部と考えていいだろう。
2)については、非常に残念ながら、多くの国でこれらの差別が常態化している。
これまで、欧州ではロシア、イングランド、イタリア、スペインなどで人種差別に該当する事例がしばしば発生してきた。
ロベカル、フッキ、アウベスも人種差別を受けた
ブラジル人選手に限っても、世界フットボール史上最高の左SBの1人であるロベルト・カルロスはアンジ・マハチカラ(ロシア)でプレーしていた2011年、対戦相手のサポーターから「サル」と罵られ、バナナを投げつけられた。
若手時代にJリーグでプレーして頭角を現わしたCFフッキ(現アトレチコ・ミネイロ)も、ゼニト(ロシア)在籍中に対戦相手のみならず自分のクラブのファンからも再三、人種差別的な仕打ちを受けたと打ち明けている。