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野球クロスロードBACK NUMBER
“14年前の惨敗”で聖光学院が誓った「人を獲らないで日本一を」初の甲子園ベスト4も仙台育英に…「この大敗もまた壁なのかな」
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byHideki Sugiyama
posted2022/08/27 11:00
今夏の甲子園、聖光学院が初のベスト4入りを果たした。“力がない”といわれた2022年世代は、いかに快挙を成し遂げたのか?
「力がない世代」にあった“先輩にないもの”
19年夏。
聖光学院の指導者たちはうなだれていた。
「この子たちが高校3年生になったら、いったいどんなチームになるんだろう」
期待ではなく不安。そんな第一印象を植え付けてしまったのが、当時、中学3年生でオープンスクールに参加した今年の3年生たちである。これが、「力がない世代」と言われる所以となっているわけだ。
「この代は終わりかもしれないな」
高校に入学して最初のミーティングで、横山は彼らに厳しい言葉を投げかけている。ただこれは、事実であって真実を訴えたわけではなかった。「この代は聖光学院の先輩にないものを持っているかもしれない」。そう感じたからこそ、あえて突き放したのである。
赤堀をはじめ、この世代は個を捨て、他を重んじられる集団だった。
「日本一になるために」
1年生からミーティングで想いを共有する。「でも、日本一の練習の前にやるべきことがあるだろ」。最初は「日本一の挨拶」だった。日本一の声出し、日本一のグラウンド整備、日本一の掃除、日本一の寮生活……そうやって自分たちの足元を見続けた先に、日本一の練習を目指せるようになった。
そこでも「野球の技術では日本一は無理だ」と、チームで認識を固める。キャッチボール、バント、走塁。少しでも心が弛緩していたり、プレーで精彩を欠く選手がいれば、「それを試合でやったらチームはどうなる?」と、どこからともなく厳しい言葉を投げかけられる。
横山が感じた「他の世代にないもの」とは、謙虚さであり、目標に向かって愚直に邁進できるひたむきさだという。
<束にならないとダメだ。そういう意識を共有できないと、最高のチームになれない>
赤堀の野球ノートには、Bチーム時代から気概が筆圧に乗り移っていた。彼だけではない。誰もが熱量を放出していた。
「俺たちが負けるわけがない」
幾度の激戦から手にした「本当の力」
歩みが、選手たちに強さと自信を植え付けていく。新チームとなった昨年秋。初戦の磐城戦で、同点の9回裏、無死二塁の大ピンチを切り抜けたところから聖光学院はスタートしている。そこから、課題とされていた攻撃力をエースの佐山を軸とした堅い守り、積み重ねてきたバントや走塁といった基本で補い東北大会準優勝。センバツでも1勝を挙げた。
春の東北大会。聖光学院の束が完成した。