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あの5打席連続敬遠から30年…星稜・松井秀喜から逃げなかった3人の高校生が明かす“真っ向勝負”「監督が敬遠しろって言ってます」 

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日比野恭三

日比野恭三Kyozo Hibino

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photograph byKoji Asakura

posted2022/08/15 17:02

あの5打席連続敬遠から30年…星稜・松井秀喜から逃げなかった3人の高校生が明かす“真っ向勝負”「監督が敬遠しろって言ってます」<Number Web> photograph by Koji Asakura

あの5打席連続敬遠が起こる前、星稜・松井秀喜に挑んだ3人のピッチャーが30年前の真っ向勝負を振り返った

 92年8月11日、甲子園1回戦で星稜に立ち向かったのは新潟県立長岡向陵高校だ。

「アンダーというよりも横と下の間ぐらい」から右腕を振る竹内正人が背番号1をつけていた。3日前の組み合わせ抽選で注目度筆頭のスラッガーと戦うことが決まった時、ある映像が初出場校のエースの頭をよぎる。

「(同年春の)センバツで宮古高校のサイドスローの投手から(本塁打を)2本打ちましたよね。テレビで見てて、すごく印象に残っていました。同じタイプですから」

 石川県大会のVTRが速やかに届く。それを眺めて竹内はゲームプランを構想した。

「松井の前にランナーを出さない。僅差の試合運びができれば勝機は出てくる」

 同じ北信越エリアに属しながらも対戦経験はなかった。長岡向陵がブロック大会まで勝ち進むことはなかったからだ。固い守備をバックに打たせてとりながら、夏を勝ち上がるごとに成長してきたチームだった。

 竹内の球速は「たぶん120半ば」。ただでさえ左打者は天敵だ。内角へのボール球で意識づけ、遠くなった外へと逃げるシュート系をすくわせる。イメージはできた。

「近めのボール球、投げ切れなかったですね。あのオーラはすごいんですよ」

 第1打席、2球連続の外角球は見送られ、次のカーブは吸い寄せられるように真ん中高めに向かう。竹内が「いったと思った」ライトへの大飛球は、浜風に押し戻された。

 3万6000の観衆がどよめく中、投手はただ一閃のスイングに気圧(けお)されていた。「後にも先にもない感覚」を味わっていた。

「私はスピードピッチャーじゃないので、(リリースの後)バッターが振ってくるのと待つのって、だいたい感覚的にわかるんです。松井は、あ、待つなっていうとこからバットを振ってジャストミートされる」

「敬遠策もあったと思うんです」

 4回を終えて星稜のリードはまだ1点だ。竹内のプランは崩れていない。5回、2人の走者を置いて松井が打席に入るまでは。

「試合のポイントですね。敬遠策もあったと思うんです。でも満塁にするよりは勝負にいこうと。流れをもってきたかった」

 果敢に内を攻めようと投じた直球は、またも真ん中高めへと向かっていく。

「私、打球見失ってます。どこに飛んでるかあんまりわかってなかったですね」

 低く速いライナーは右中間を破っていた。三塁打で2者生還。ここぞと綱を引いた竹内は、巨大な力で体ごと引き戻されたのだ。

【次ページ】 記者から問われた「明徳の作戦、どう思う?」

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