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甲子園で勝てない鳥取勢…なぜ? 高校の数より「景気」が影響する理由 元米子東監督「あの頃は全国レベルだった」
text by
岡野誠Makoto Okano
photograph byKYODO
posted2022/08/19 17:00
今大会、初戦で仙台育英に屈した鳥取商。なぜ鳥取県勢は甲子園で勝てなくなったのか?
「県民性も関係していると思います。全体的におとなしいですし、高望みをしない。私も甲子園に出場できただけで満足してしまった。(1983年夏の)初戦で学法石川(福島)に1対2で負けたのですが、もっと死ぬ気で勝ちに行けば良かったと未だに後悔しています。また、鳥取には堅実でスタンダードなチームが多いため、他地区の野球に戸惑うこともある。たとえば、本州から離れた九州には野武士的な高校があります」
米子東がセンバツに出場した2019年、部員10人の川棚高校(長崎)がマイクロバスに乗って練習試合に訪れた。選手によって実力差の激しいチームは極端な作戦を取ってきた。打撃力の高い選手を1番から5番まで並べ、それ以外は6番から9番に固めた。
「結局、上位打線に打たれて、米子東が負けました。その年は夏も出場しているし、強いチームだったんですけどね。九州のチームは、思い切りの良さがある。鳥取は交通の便が良くないですけど、隣接県だけでなく、他地区と積極的に練習試合をするといいと思います」
「校数の多さが強さに比例するとは限らない」
杉本氏は他県の大会を見ても、鳥取のレベルが格段に落ちるとは感じていない。
「どの都道府県も強い高校は一握りです。他県の強豪校で監督をしていた方が鳥取に来たら、3年連続初戦敗退した例もありました。校数は少ないですけど、鳥取は平均以上のチームが多い。記念大会の年に2校出場する県もありますが、両方とも勝ち上がるケースは少ないですよね。校数の多さが強さに比例するとは限らない証拠だと思います」
今後の鳥取には、期待を持てる要素もあるという。
「最近は米子東から東京六大学の慶応、明治、法政に入った選手もいますし、7月の都市対抗で日本製鉄鹿島の補強選手として出場した森下智之外野手がクリーンアップで猛打賞を決めるなど活躍しました。近年、大学や社会人で戦う選手が増えており、彼らが将来指導者として鳥取を復活させてくれるかもしれません」
高校生だけの頑張りで勝てるわけではない。甲子園での1勝には、県の景気や野球環境など複雑な要素が絡み合っているのだ。
参考文献:『国鉄野球史』(1981年3月発行/国鉄硬式野球連盟)
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