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「最初聞いたときは、ちんぷんかんぷんで…」イチロー指導の智辯和歌山が実現した”奇跡の走塁”《甲子園優勝校の特別秘話》
text by
石田雄太Yuta Ishida
photograph byNaoya Sanuki
posted2022/08/12 17:00
2020年12月2日から3日間、イチローは智辯和歌山の野球部を指導した
「あのときは最初、何が起こったのか、わからなかったです。点が入ったので、やられたと思って、ベンチに戻ってからそんな話をしましたね。智辯さんが終盤にもう1点を取りに来てる感じはあって、そこであの走塁ができるというのは、また違う智辯さんを見せられた感じがしました。何とか市高を倒すという気持ちもすごく伝わってきましたし、こっちとしては、どんどん走って来いよと思っていたんですけど……」
イチローが悔やむ16年前のプレー
じつはイチローがマリナーズにいた2006年、彼の頭の中にこのプレーが浮かんだことがあった。1点勝負の試合終盤、ツーアウト一、三塁の場面で、一塁ランナーのイチローは三塁ランナーを還そうと、二塁への駆け抜けをイメージしたのだ。ただ、このときはショートがファンブルして楽々とセーフになるタイミングになってしまったため、駆け抜けるのをやめた。イチローは「あのとき、二塁を駆け抜けるプレーを示しておけば、このプレーのサンプリングができたのに」と、ずっと悔やんでいた。
そのイメージが現実のものとなった。しかも“イチローの野球”を受け継いだ高校生によって……中谷監督はこう話した。
「ずっと練習はしてきたんです。でも、ああいう場面に遭遇することが、じつは一度もなかった。それまでの試合……公式戦はもちろん練習試合でも、紅白戦やシートバッティングでさえ、一度も起こることがなかったんですよ。なのに、甲子園を懸けた大事な決勝戦の最後の4点目で、よりによってあのプレーが出るのかって鳥肌が立ちました。正直、戦っているときはイチローさんのことは忘れてますよ。それが突然、『おいっ』ってイチローさんから言われたような(笑)、うわぁ、ここで出てきた、イチローさんって、そんな感じでした」
<後編へ続く>