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「YUSHIの華は認めるが…」RIZINでの“ホスト対決”に朝倉未来の『BreakingDown』、「何でもあり」に傾く格闘技界への疑問
text by
布施鋼治Koji Fuse
photograph byRIZIN FF Susumu Nagao
posted2022/08/08 17:01
華やかな入場で『RIZIN.37』を盛り上げたYUSHI。一方で「格闘技」の線引きについて考えさせられるマッチメークでもあった
いまや格闘技の世界そのものが「何でもあり」に?
YUSHIのようなキャラクターの登場は今回が初めてではない。業界で“飛び道具”と呼ばれる専門用語を引用すれば、2005年の大晦日に『PRIDE 男祭り』で格闘家デビューを果たした俳優の金子賢の例がある。
しかしながら当時は「12月31日はお祭り。ちょっとくらい、いつもと違うことをやっても大目に見てよ」的な空気が漂っていたので、結果的に一本負けで終わった金子の格闘技挑戦も大きな問題になることはなかった。なお、その後も金子は2度MMAに挑戦したが、2戦目のHERO'S出場時には同プロモーションのスーパーバイザーを務めていた前田日明氏から「アマチュアの試合から始めろ」と批判されている。
もちろん地上波放送もあったので、主催者からみれば、金子の存在がキラーコンテンツだったことは想像に難くない。とはいえ、今回のマッチメークは大晦日に組まれたものではない。日本国内の興行では最大規模をほこるRIZINには『TRIGGER』『LANDMARK』を含め3種類の大会があるが、その中でも最も権威のあるナンバーシリーズで組まれた。これはいったい何を意味するのか。
かつて総合格闘技はバーリトゥードと呼ばれていた時代があった。バーリトゥードとはポルトガル語で「何でもあり」という意味だが、いつのまにか格闘技の世界そのものが何でもありになってしまったのだろうか。
そもそも格闘技という単語はひとつの競技を指すものではない。総合格闘技、キックボクシング、フルコンタクト空手、ブラジリアン柔術など、いわゆる格闘技専門誌で扱われる機会の多い競技は全てこの「格闘技」の範疇に当てはまる。つまり世間でいう格闘技は集合名詞であり、特定の競技を指すものではないのだ。
そういう意味でいえば、ボクシング、柔道、相撲といった競技は前述した格闘技の範疇に属さない。厳密にいえば間違いなく格闘競技ではあるが、独立した競技として認知されているので属する必要もない。プロのリングスポーツでスポーツ紙ではない一般紙に試合結果が掲載されるのはボクシングしかない。一時は八百長問題で揺れに揺れた大相撲も、一般メディアから除外されることはなかった。