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「地球に生まれてよかったー」名言も誕生…世界陸上キャスター・織田裕二はなぜ愛されたのか? 陸上関係者の証言「練習とか、一生懸命見ていた」
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph byAFLO
posted2022/07/25 17:00
1997年から25年にわたり世界陸上のメインキャスターを務めてきた織田裕二
関係者評価の変化「練習とか、一生懸命見ている」
でもいつしか、織田への眼差しは変化していった。メインキャスター卒業が大きな反響を起こし、惜しむ声も少なからず上がるまでになった。
批判的な眼差しを乗り越え、ここまでたどり着けたのはなぜだったのだろうか。
転機をあげるとしたら、2007年大阪大会があげられるかもしれない。
1997年以降、しばらくはスタジオから中継に参加していたが、この大会ではスタジアム内に設けられたブースから中継に臨むことになった。
画面越しには、スタジアムのブースでも、スタジオでも、そこまで差はないようにも思える。ただ不思議と、『踊る大捜査線』の有名な台詞「事件は現場で起きている」ではないが、現場の空気と織田のテンションがうまくかみ合うようになった感があった。
それ以降、海外の大会でも現地に赴くようになったが、大阪などの大会で陸上関係者の評価をあらためることになった。
「練習とか、一生懸命見ていたりするんですよ」
そう聞いたことがある。自身の役割について真摯に向き合う姿が伝わっていった。
名言も誕生…思わずこぼれた「地球に生まれてよかったー」
キャスターとして、決して言い回しが絶妙であったり、発言を文字に起こしてみて、名言とされるものは決して多いわけではない。どこか事前に考えていたのでは、と感じさせるような、2003年のパリ大会での「事件はパリで起きてます」(男子100m予選でジョン・ドラモンドが失格処分に抗議したことに対して)、2009年のベルリン大会での「ベルリンでは早くも記録の壁が崩壊しました」(ウサイン・ボルトの100mに対して)といった言葉もあることはある。
それよりもむしろ、そのテンションと感情をそのまま乗せたような言葉こそ、のちのちまで強く記憶された。
例えば、大阪大会での言葉だ。
アサファ・パウエル(ジャマイカ)、タイソン・ゲイ(アメリカ)らが出場した男子100m決勝についてのひとこと。
「地球に生まれてよかったー」
あるいは、男子400mハードル予選で為末大が敗退したときの言葉。
「何やってんだよ、タメ(為末)」
そこにうかがえた選手への愛情なり、陸上への思いとともに、織田という存在は受け入れられるようになっていったように感じられる。2013年の記者会見ではこう語っている。
「一人ひとり人間ドラマがあって、単に足が速いとかじゃなくて、どの選手にもバックボーンがあり、そういう部分に役者としても共感します」