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高額賞金、選手の低年齢化が生んだ“テニス界のとんでもない毒父たち”…娘の虐待告白にも「グラフのような選手になってほしいから」
text by
山口奈緒美Naomi Yamaguchi
photograph byGetty Images
posted2022/06/19 11:02
ヒンギスに匹敵する天才少女と謳われたミリヤナ・ルチッチは、ジュニア時代からおよそ10年にわたって父による虐待を受け続けた
フェドカップのような代表戦でさえマリンコは常にミリヤナを監視・管理し、チームメートと自由な時間を過ごすことを許さなかったという。
ミリヤナは父を訴えた裁判に勝ち、父は大会への出入りが禁じられた。なおミリヤナは21歳の若さで一度ラケットを置くが、4年後に競技に戻り、2010年のウィンブルドンで8年ぶりにグランドスラムの舞台にカムバック。さらに7年後の2017年の全豪オープンで34歳にしてグランドスラム18年ぶりのベスト4入りを果たす。その激動の人生があらためて脚光を浴びた。
その4)有名な恫喝父が隠していた“しごき練習の実態”
選手の親が管轄組織から出入り禁止を命じられた最初の例は、グランドスラムの優勝2回、準優勝3回の実績を誇る元世界3位のメアリー・ピアースの父といわれている。アメリカ人の父・ジムは、娘のジュニア時代から対戦相手を試合前に脅したり、試合中に罵ったり、相手を応援した観客を殴ったりと、目にあまる行動を重ねていたが、そのときはまだ、メアリー本人が父親からひどい虐待を受けていたことはニュースになっていなかった。しかし、実はしごきに近い練習を毎日強いられ、試合に負ければ顔を殴られ、歯が折れることもあったという。
1993年、当時18歳のメアリーは父の暴力から自分を守るためにボディーガードを雇ったが、父がこのボディーガードを殴ったことが発端となり、WTAが公式に父親に対してテニス会場への出入りを禁じた。メアリーはついに父と訣別するが、その決断は正しかったのだろう。翌年の全仏オープンで決勝に進み、さらにその翌年の全豪オープンで初優勝を遂げた。
高額賞金や選手の低年齢化…毒親を生む“テニス界の特異環境”
他にも問題を起こした父親といえば、シュテフィ・グラフの父で脱税の罪に問われたペーターとか、元世界1位のジェニファー・カプリアティの父・ステファノもその強引なステージパパぶりで娘の10代での燃え尽きと非行の元凶と批判された。アンドレ・アガシも父の暴力や薬物強要といった壮絶な過去について自叙伝の中で赤裸々に書いている。
テニスは、高額賞金や低年齢での成功など、こういう親を生んでしまいやすい要素をはらんでいるのだろう。今のテニス界にもコーチとして、親として、常に子供に帯同する父親たちはたくさんいるが、最近はこういったひどい話を過去のものとしてしか聞かなくなった。時代背景もあるだろうし、ツアー参加への年齢制限などのルール作りも功を奏しているのかもしれない。父の日に悲しく思い出される“毒父”たちの名前は、これ以後もう出てきませんように。