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「井上尚弥は全階級で最高のパンチャー」「1位に浮上するかは50/50だが…」米リング誌記者に聞く“怪物が世界の頂点に立つ日”
posted2022/06/09 17:15
text by
杉浦大介Daisuke Sugiura
photograph by
AP/AFLO
6月7日、さいたまスーパーアリーナのリングでWBAスーパー、IBF世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)は衝撃的なまでの強さを見せてくれた。約2年半前に激闘を演じたWBC同級王者ノニト・ドネア(フィリピン)とのリマッチで、1、2回に1度ずつのダウンを奪って2回TKO勝ち。圧巻の内容であり、“モンスター”の面目躍如のパフォーマンスだったといって良いだろう。
この試合を海外の識者はどう見たのか。“ドラマ・イン・サイタマ2”と銘打たれた3団体統一戦直後、リングマガジンの編集人(マネージング・エディター)であり、2019年11月に行われた第1戦を日本で取材した経験を持つ英国人ライター、トム・グレイ氏に意見を求めた。
井上が披露した余りにも見事なボクシングに興奮を隠せなかったグレイ氏。その言葉は、日本が産んだ怪物ボクサーが真の意味で世界の頂点に立つ日(=パウンド・フォー・パウンド・ランキング1位)がもう遠くはないことを予感させるものだった。
“2年半前”に想定した結果だった
井上対ドネアの第1戦の際、私は日本に行き、これまで現場で観た中で最高と思える劇的なファイトを目撃しました。それが今回のリマッチはがらっと変わり、井上の強さばかりが目立ちました。振り返ってみれば、第2戦の内容、結果こそが第1戦の際に私が想定していたものであり、2年半の時を超えて井上はそれをやり遂げたのでした。
今回、試合前の私の予想は「ドネアが第1戦より慎重に戦った上で井上が判定勝ちを飾る」というものでした。再戦前日に第1戦の映像を見返してみましたが、ボクシングの技術では井上が常に一歩先をいっていたように感じました。それを踏まえ、リマッチは同じようなドラマにはならず、井上がポイントを稼いでいくと考えたのです。
だから井上の勝利自体は予想通りでしたが、あれほど鮮やかなKOを飾るとは思っていなかったというのが正直なところ。2回という短い試合になったことに少々驚かされました。
井上は序盤の強さに定評があるだけに、開始直後のドネアは丁寧に戦うと思っていたのですが、井上が初回から非常にいい攻めをしたため、応戦せざるを得なくなったのでしょう。それが1回終盤、右カウンターでのダウンシーンに繋がりました。