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野球善哉BACK NUMBER
センバツ山田陽翔“あの賛否の激投”…近江の監督がいま明かす「続投を避けられなかった理由」“登板過多=監督の責任”は本当か?
posted2022/06/09 11:11
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph by
L)Hideaki Ujihara/R)Hideki Sugiyama
いつもは柔和な指揮官の表情が取材中に晴れなかったのは、おそらく、この春の記事を意識してのことだろう。
「今大会の選手起用を否定的に見る人たちはここを知らんと思う」
この春のセンバツで準優勝を果たした近江は激戦を戦い抜いた陰で、今の時代とは逆行する投手起用をみせ、近江・多賀章仁監督は一躍時の人となった。
準決勝戦の5回裏、1回戦からこの日まで全試合完投していた山田陽翔にアクシデントが起こった。左足首に死球を受け、全力では走れない状況になったのだ。しかし、それでも多賀は山田をマウンドに送り、延長11回を完投させたのである。
マウンドまで走ることもできない投手が投球を続けている。
この状況を問題視するメディアが筆者を含めて多くいたのだ。
過密日程の昨夏。山田は疲労骨折していた
そもそも、今大会の山田は完全な状態で挑んだとは言えなかった。
昨夏の甲子園、ベスト4に進出した近江は過密日程の中で故障者を出した。
というのも、2021年の夏は過去に類を見ないほど雨に祟られた大会だったのだ。大会第3日が3日間の順延。大会予備日が削られ、トーナメントの最終ブロックにいた近江はより過酷な日程を強いられた。
2回戦の大阪桐蔭戦を終えたのち、決勝戦まで進めば6日間で4試合をこなさなければいけないという過密スケジュール。無論、投手起用の問題に直面した。
二枚看板を擁していた近江は、現在のエース・山田が先発し、当時3年生だったエースナンバーの岩佐直哉が継投するスタイルで勝ち上がった。しかし、3回戦あたりで岩佐の体が悲鳴を上げた。準々決勝でリリーフ登板するも右肘に痛みが出て途中降板。その“代役”として、再び山田がマウンドに上がった。
チームは準決勝で敗退。山田は滋賀に帰ると右肘を疲労骨折していることが発覚。全治1カ月の診断だった。ちなみに、岩佐は全治3カ月だったという。
当然、昨年秋の新チーム結成から多賀は山田の将来を考え、登板を回避した。
いわば、今年春のセンバツは、山田にとって、故障明けの舞台だったのだ。
1回戦ではタイブレークまでもつれるなど、170球近くを投じている。「普通の投手なら、50~100球を超えていくと球速が衰えていくんです。しかし、山田は150球を超えてからも球速が増す」と多賀は山田の潜在能力を語るが、故障明けの体には過酷だったといえる。