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野球善哉BACK NUMBER
センバツ山田陽翔“あの賛否の激投”…近江の監督がいま明かす「続投を避けられなかった理由」“登板過多=監督の責任”は本当か?
text by
氏原英明Hideaki Ujihara
photograph byL)Hideaki Ujihara/R)Hideki Sugiyama
posted2022/06/09 11:11
今年のセンバツで物議を醸した山田陽翔の激投。その裏側を近江・多賀章仁監督に聞いた
夏の甲子園後、すぐに大会…選手はいつ休めるのか?
多賀には甲子園のために全力を尽くしてきたという自負があった。
昨夏は2回戦で優勝候補筆頭格の大阪桐蔭を撃破。2年生だった山田はその試合で登板し、甲子園を沸かせたのではないか。その奮闘の代償を考慮して、センバツにつながる秋季大会で登板を回避したところ、それが認められなかった。
日本高野連や世論は複数投手を取り入れることを薦めるが、現場の高校野球にはその土壌がない。夏の甲子園が終わって、すぐさまセンバツに出場するための一発勝負の大会が始まるのだ。
いつ投手を育成するのか。いつ、投手を休ませるのか。
その環境を作らないままに、指導者やチームは勝利に追い掛けられ、登板過多があれば、批判にさらされるという状況は決して健全ではないだろう。
そもそも、夏の過密日程がなければ、山田はこんな目に遭っていなかったのかもしれないのだ。
「大会に出る以上は…」山田登板は最善策だった
もっとも、大会に参加する以上、ベストを尽くすべきだというのが多賀の考えだ。過密日程だったとはいえ、納得はしているのだとこう語る。
「昨年夏は雨があってね、大会を最後までやり切れるかどうかそちらの方が問題だった。コロナがある中で、大会を運営してくれた。試合をしようと思って甲子園に入ったら雨で、室内練習場で練習だけして帰るということも続きました。でも、そうした経験も子供らの人生にとっては貴重ですしね。
大会に参加していると情報が入ってくるのですが、連盟とタイガースが話し合ってくれて、最悪の場合は、昼に高校野球をやって夜にプロ野球ということもあると聞きました。そこまでしてくれているんやという話を聞くと、野球をやらせてもらうだけ幸せやなと。過密日程かもしれないけど、僕らは最善を尽くしてやり切ろう。そういう思いなんですよ。また、山田という男はそれを背負える子なんです」
大会を開催している以上は、指揮官は全力を尽くすことでその感謝を表し、選手たちは懸命に腕を振る。
高校野球とはそんな世界だ。
今大会に入る前、多賀は山田に全試合登板させることを伝えていたという。
エースと他の投手との差に開きがあるのだから、仕方ない。「全力を尽くす」とはこの春の時点の近江にとって、山田の登板が最善策だった。