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日本の審判に「戦力外通告」がある一方で… アメリカで物議を醸す「AIの厳格すぎストライク判定」とは〈佐々木朗希の件以外に今季退場3回〉 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2022/06/03 11:04

日本の審判に「戦力外通告」がある一方で… アメリカで物議を醸す「AIの厳格すぎストライク判定」とは〈佐々木朗希の件以外に今季退場3回〉<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2022年の野球界は審判が注目されることが増えている

 白井球審はストライクボールの判定に抗議しようとした佐々木朗希には警告を発した。そしてレアードは警告を発したにもかかわらず、なおも抗議したので退場にした。エチェバリアのケースは最初エチェバリアが抗議したので福家球審が警告を発し、そこに井口監督が畳みかけて抗議をしたので、退場処分にしたわけだ。

 もちろん佐々木朗希のケースは全国が注目する試合でもあり「ほかにやりようはなかったのか」という議論はあるだろうが、制度上は審判に瑕疵はない。

 しかし世間では「審判はどうなっているのだ」という議論が起こっている。

「あれをストライクと言われたら誰でも文句を言うだろう」

「白井の判定は、以前からおかしかった」

 このような声がSNSで起こっているが、審判のジャッジが問題だと断定するようなデータはない。むしろセ・パの審判部が統合されてから審判の技術は向上しており、元ロッテの荻野忠寛さんなどプロ経験者も「プロ野球の審判の技術は本当に高いです」と話している。

審判部は常に査定しており、戦力外も存在する

 審判の世界も、非常に激しい競争が繰り広げられている。

 NPB審判部は審判の査定を常に行っていて、実力で出場機会を与えられている。能力が及ばないと判断された審判は、「戦力外」を通告される。さらに審判に採用されて定年まで職務を全うするのは約半数にすぎないと言われる。50人以上現役の審判がいる中で、白井一行は1997年に審判になり、2021年終了時点で現役17位の1523試合に出場している。能力に問題があると見なされればここまで試合に出ることはない。

 ロッテとの一連のトラブルでは「低めの投球」の判定が問題になったのだろう。ただその判断は、「球審の裁量の範疇」だったと言ってよいだろう。

 そして少なくとも今の審判が昔に比べて「劣化している」と判断する材料は存在しない。

 以前のコラムで書いたが、プロ野球が盛んになるとともに審判を軽視する風潮が監督、選手の間に広まった。1961年の日本シリーズでは南海のスタンカの投球をめぐって紛糾し、暴力沙汰となった。スポーツ紙は「円城寺あれがボールか秋の空」という句を掲げて、円城寺満球審を暗に非難し選手に同情気味だった。

 1970年代半ばからプロ野球中継でセンターカメラからの映像がメインになり、捕手のミットに投球が収まるシーンがオンタイムで確認できるようになってから、ファンもストライク・ボールの判定に関心を抱くようになり「あの審判はおかしい」というような話題が日常的となったのだ。

 スポーツマンシップの考え方では、スポーツは「チームメイト、相手選手、審判、ルールへのリスペクト」が前提になっている。

 審判を軽視し、疑義を唱えるのはスポーツの成立要件を危うくする。審判の技術、ジャッジに問題があると判断すれば、試合とは別の機会に連盟に質問や抗議をすべきなのだ。試合中に抗議をすることはあり得ないのだ。

果たしてAIが人間の審判に取って代われるのか

「もうじきAIが人間の審判に置き換わるから、こういうトラブルは昔話になるよ」という声も聞こえてくるが、これも大いに議論の余地がある。

【次ページ】 “ゾーンをかすめたけどワンバウンド”もストライクに?

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