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日本の審判に「戦力外通告」がある一方で… アメリカで物議を醸す「AIの厳格すぎストライク判定」とは〈佐々木朗希の件以外に今季退場3回〉 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2022/06/03 11:04

日本の審判に「戦力外通告」がある一方で… アメリカで物議を醸す「AIの厳格すぎストライク判定」とは〈佐々木朗希の件以外に今季退場3回〉<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

2022年の野球界は審判が注目されることが増えている

 確かに今のNPBの一軍の試合ではアウト・セーフ、本塁打以外のファウル・フェアの判定には監督が「リクエスト」を依頼したり審判が確認を求めて、ビデオ映像で確認できるようになっている。MLBで2014年から始まった「チャレンジ」に準じたものだ。しかしこれはあくまで抗議ではなく、微妙なプレーについての確認であって、最終的な判断は審判が行っている。

 また1試合で「リクエスト」ができる回数は限られている。「審判員の判断に基づく裁定は最終のもの」という原則が崩れたわけではない。

「ストライク・ボールの判定にAIを導入する」とは、実際にはトラックマンなどのトラッキングシステムで捕捉したボールの軌道が、ストライクゾーンを通過したかどうかをAIが判断することになるのだと思う。

“ゾーンをかすめたけどワンバウンド”もストライクに?

 しかしAIが審判に代わってストライク・ボールの最終判定をするところまで行くのは、非常に難しい。

 MLB傘下のマイナーではABS(Automated Ball-Strike System)というトラックマンのデータに基づいたストライクボールの自動判定システムが実験的に導入されている。現地の報道では「ABSと審判のジャッジが違うケース」がかなり出ているとのことだ。

 例えばストライクゾーンをかすめて大きくそれる投球やワンバウンドする投球もABSは「ストライク」と判定するが、審判は手を上げないことが多い。

 本来「ストライク」とは打者が打てると判断した投球に対して審判が「ストライク(打て)」と宣するもの。ゾーンをかすめても「打てない」「打つに適さない」と判断した投球に対して、審判は「ボール」と判断してきた。

 しかしABSの判定がそのまま認められることになれば――ストライクゾーンをかすめてバットが届かないコースにスライドするような変化球を編み出す投手が出てくるだろう。

 2019年オフに来日したレッズのトレバー・バウアー(現ドジャース)はトラッキングのデータを見ながら「回転軸を何度傾けて、こういう軌道を通る変化球を投げるために練習している」と言ったが、トップクラスの投手は投球の軌道を自分でデザインすることができるようになっているのだ。

 さらに野球のグラウンドは完全な水平ではない。傾きもあるし、プレーとともにバッターボックスに窪みができることもある。その結果をABSが判断するとすれば、これまで説明したように人間の審判と異なるジャッジをするケースが多々出てくる。

急速に進化した「フレーミング」という要素

 また近年、急速に進化した「フレーミング」の要素もある。

【次ページ】 AIであれ、人間であれ最も大事なのは……

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