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《今年はイクイノックス》平成ダービー“最強の2着馬”は誰だ? 「16番人気だったライスシャワー」「三冠を逃したエアシャカール」
posted2022/05/30 06:01
text by
石田敏徳Toshinori Ishida
photograph by
JIJI PRESS
平成に誕生した30頭のダービー馬の陰には、同じ数の2着馬が存在する。一世一代の栄冠を惜しくも掴み損ねた馬たちのなかで、「最強」の称号が相応しいのはどの馬か。それを考えるのが本稿の趣旨である。しかしそもそもこの場合、「最強」が指し示す意味って何ですか?
「いや、それは自分で考えてください」
謎めいた微笑みを浮かべ、ライターをあしらう編集者。よろしい。ならばいくつかのアプローチをもとに、“最強の2着馬”を自力であぶり出してみよう。
三冠を逃したエアシャカールの「7cm差」
さすがに「世代で2番目に強かった」だけあって、ダービーの2着馬にはその後に大成した馬が多い。ダービーの後、未勝利に終わってひっそりとターフを去った馬は五指にも満たない反面、ダービーの2着を飛躍への足掛かりとした馬、その後にGIを勝った馬を数えると十指でも足りない。とはいえ“その後の活躍”は先送りにして、まずはレースに焦点を絞る。ダービーで「最も惜しい負け方をした2着馬が最強馬」というアプローチである。
平成のダービーでハナ差の決着は3回、記録された。'00年2着のエアシャカール(着差は約7cm)、'12年2着のフェノーメノ(約23cm)、そして'16年2着のサトノダイヤモンド(約8cm)が、何とも悔しい「ハナ負け」を喫した馬たちだ。大差にちぎられても、髪の毛1本の差で敗れても2着は2着。陣営の無念は察するに余りあるが、このうち、皐月賞との2冠制覇に挑んだダービーで、アグネスフライトに競り負けたエアシャカールは秋に菊花賞を勝った。結果的にはダービーのみならず、三冠の栄誉まで獲り逃がしたのだから、実に大きな“7cm差”だった。
「生まれた年が違っていれば…」
そんな3頭の他に'11年2着のウインバリアシオンも印象深い。道中は末脚勝負に構えて後方4番手を進み、大外へ持ち出されてスパートにかかった直線半ば、勝利の趨勢は確かに傾きかけていた。手綱を取った安藤勝己騎手が「勝ったと思ったけどねえ」と悔しそうに振り返ったほど、繰り出した末脚は迫力に満ちていた。
しかし相手が悪かった。何しろあのオルフェーヴルだ。外から迫られた途端、驚異的な闘争心とパワーを発揮。そこからガンガン加速した強敵に突き放され、ウインバリアシオンの野望は潰えた。
ダービーの明暗はこのように、巡り合わせの運不運にも左右される。「生まれた年が違っていれば、お前がダービー馬だったのに」と思わせる2着馬は枚挙に暇がない。