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審判は「野球の必要悪」!? 佐々木朗希への“球審詰め寄り騒動”は結局何が問題なのか《侍ジャパンには“星野監督の失敗”で申し送り事項も》 

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鷲田康

鷲田康Yasushi Washida

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photograph bySankei Shimbun

posted2022/04/29 11:05

審判は「野球の必要悪」!?  佐々木朗希への“球審詰め寄り騒動”は結局何が問題なのか《侍ジャパンには“星野監督の失敗”で申し送り事項も》<Number Web> photograph by Sankei Shimbun

4月24日、オリックス戦1回に安打を許し、連続アウトが「52」で途切れた佐々木朗希。2回には白井審判員に詰め寄られる“騒動”が起きた

 北京五輪で国際審判員の判定を不服として、日本代表の星野仙一監督が猛烈な抗議を繰り広げた。しかしその結果、その後の試合では当該審判員だけではなく、審判団から日本代表が暴力的だと睨まれ、かなり厳しい判定を受けるようになった。その反省から国際試合では、審判員の判定に抗議をしたり、不服そうな態度を示すことは絶対にしてはいけない、というのが日本代表の申し送り事項になっている。

 またメジャーでは投手が判定に不服そうな態度を見せたら、その後は肝心なところで際どいコースを全部、ボールと判定されるという話もよく聞く。

 佐々木は初回にも同じようなところをボールに判定されて、そのときも態度に出してしまっていた。ただ、当該試合の白井球審は外角の際どいボールに対しては総じて辛い判定だったし、オリックスの先発・山崎颯一郎投手にも同じだった。そしてその外角への辛さは騒動の後も一貫して同じだったように見えた。

 そういう意味では騒動はあったものの、佐々木にとって実害はなかったとも言えるのだ。

パンチョ伊東さんが書いていた「野球の必要悪」論

 メジャーリーグの歴史を通して野球文化の多様性を綴った名著『野球は言葉のスポーツ』(伊東一雄、馬立勝著)では「失敗するのが人間」という項でアンパイアの存在について書いている。

「審判員と記録員の名前をファンが知りたがるのは、ジャッジが間違ったときだけだ」というメジャーの古い格言を引いて、間違いを犯さず、毅然として冷静な理想の審判像には「こんなスーパーマンが現実にいるはずがない」と看破する。その上でそれではファンは審判員をどう見たらいいのか、という自問に「彼らは野球の必要悪だ」と規定している。

 将来的にはロボット審判が導入されて人的要素が排除されるようになるのかもしれない。それでもまだ当面の間は、アンパイアは試合の進行を司るグラウンドの支配者であり、ときには権威を振りかざすかもしれないが野球の「必要悪」なのである。

 元中日監督の落合博満さんが現楽天の涌井秀章投手を高く評価していたのは、マウンドで一切、表情を変えないことだった。20歳そこそこの佐々木が、別にそこまで感情を押し殺す必要はないかもしれない。ただ、どんな局面でも1つの判定に心を揺らせば、勝負の世界でプラスはない。そして判定に感情を見せれば、こういうことも起こる。周囲が騒ぐほど白井球審の行動を佐々木本人も気にはしていないだろうし、そのことを学んだという点で、いい経験となったはずである。

 あともう1点、最後に付け加えるとすれば、アンパイアがグラウンド上で行った行為については説明責任があるはずだ。だとすれば白井審判員は自らの言葉で、自分の行動の真意を説明すべきだった。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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