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オリンピックPRESSBACK NUMBER
平野歩夢“あの2本目”不可解採点…北京五輪・日本人ジャッジが初めて明かす“審査員たちが話していたこと”「僕は平野選手を上にしましたが…」
text by
矢内由美子Yumiko Yanai
photograph byAsami Enomoto/JMPA
posted2022/05/01 17:03
平野歩夢が金メダルを獲得した北京五輪・スノーボード男子ハーフパイプ。日本人審判として採点を行った橋本涼氏が初めてメディアの取材に応じた
ジャッジルームの“平野2本目評”
ところが、平野に対する6人の採点が出そろうと、他の5人は96点、92点、90点、89点、90点。この中から89点と96点がカットされ、平野のスコアは91.75点となった。この瞬間、橋本氏は複雑な心境になっていた。実は、橋本氏の目にも、平野のランには評価を下げる要因となった箇所がいくつかあると映っていた。特に4つ目のバックサイド・ダブルコーク1260で高さが出ず、「ニーグラブ」をしたことと、ランディングがクリーンではなかったことだ。
「ニーグラブ」とは膝を抱えることを意味し、完成度が低いと見なされる。しかもこの時の平野は、膝ではなく太ももを抱えており、よりマイナスの印象になったという。
さらには着地もずれていた。橋本氏の目には、完成度が極めて高かったスコッティとの差はほとんどないと映り、「ジャッジの判断は分かれるだろうな」と思ったという。
採点が出そろうと、スコッティを上にしたジャッジが4人で、平野を上にしたジャッジは2人だった。大型スクリーンに平野の順位が「2位」と映し出された瞬間、会場では大ブーイングが起きた。テレビの解説者、視聴者も世界中でブーイング。ネット上では採点に対する不満が噴出した。橋本氏はジャッジルームでとっさに「(スコッティの3つ目のトリックは難度が低い)フロント900だけど、大丈夫?」と他の審判に投げかけた。すると、「でも、アユムのニーグラブは酷かったよ」という声が返ってきた。
結果として橋本氏ともう1人のジャッジは平野を上にしたが、他の4人は、平野の「ニーグラブ」、高さ不足、ランディングがクリーンでなかったことを、スコッティの完成度の高いランと天秤にかけ、スコッティを上にしたということだ。スコッティは、板の回転方向や踏み切りの向きにより、「バラエティ」という部分も高く評価されていた。
平野の提言に橋本氏も「変えていかなければ」
橋本氏はこのように語る。
「僕は、平野選手の減点箇所を考慮しても、スコッティ選手は3つ目に“900”があったため、平野選手を上にしましたが、スコッティ選手を上にするジャッジもいるだろうとは思いました。ただ、スコッティ選手の3つ目が1260だったら、僕もスコッティ選手を上にしていました」
ここで言えるのは、2本目の採点で平野が2位になったのは、完成度の差で順位をつけたジャッジが多かったことが理由だということ。あくまで採点基準にのっとった評価であるが、平野がこの判定について「怒りもあった」と語ったのも事実だ。平野は試合から一夜明けた現地での会見で、「スノーボードは自由であることも魅力だが、高さや技を測れるようなものを整えていくべきだと思う。そういう時代になってきたのではないか」という提言をしている。
これについては橋本氏も「僕自身、変えていかなければいけないことがあると思っている」と語った。
後編では今後に向けての改善案と、北京五輪のドラマにもつながっていくことになった2018年平昌五輪のショーン・ホワイト(米国)と平野の3本目の採点を紐解いていく。
<後編へ続く>
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