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「子どものサッカーのために借金」支援を受ける31%が回答…新品のスパイクを買えない親たちの“悲痛な本音”「生きるのに精いっぱい」
text by
中小路徹Nakakoji Toru
photograph byGetty Images
posted2022/04/21 06:00
「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むこと」は、すべての人々の権利だ。しかし、現実には、貧困や社会格差のために、スポーツを存分に楽しめない子どもたちがいる
「新品を買って渡した時のうれしそうな顔が」
サッカーが家で親子の距離を縮め、幸せなひとときをつくる。東京都内の40代のシングルマザーは、それを実感するそうだ。
4年前に離婚し、中学3年から小学1年までの4人の子どもを、事務職に就きながら一人で育てる。今は、応援事業を受け、中1の長男が学校の部活で、小5の次女が地域クラブでサッカーを続ける。
以前は、スパイクもウェアもボールも、やはりサッカーをしていた長女のお下がりを使うことが多かった。しかし、成長した長男には小さすぎる。何より、スパイクもボールもボロボロになっていた。
「新品を買って渡した時のうれしそうな顔が、今も目に焼き付いています。うちはサッカーでまとまってきた家庭でした。みんなでテレビのサッカーの試合をみて、コミュニケーションの場にもなる」
次女にとっては、サッカーは「唯一、友だちとつながれる場」。不登校の時期があったが、サッカーだけは休まずに行けた。だからこそ、サッカーは心置きなく楽しめるものであってほしいのだ。
母親はオンラインの交流会で、長男が自分の意見を言っていたことに驚いたそうだ。「選手のみなさんが失敗談を語ってくれ、『完璧じゃなくていいんだ』と、肩の力が抜けたようでした。以前は自己肯定感が低くて、目線がいつも下に向いていたのが、夢が大きくなったようです。応援事業を通じて、そういう人生の勉強をさせてもらっています」
スポーツは、何のためにあるのか
スポーツは、何のためにあるのか。
勝ちたい、という自己欲求を満たすものであっても、社会とのつながりの中で存在している以上、その意味を考えたい――。
コロナ禍と、開催に賛否が渦巻いた東京オリンピック・パラリンピックは、スポーツ界の深部にそんな問いかけをしたのではないか、と思う。
森谷が取材の最後に語ってくれた言葉を、このレポートの締めにしたい。
「何のためにサッカーをするのか、という考えを持てたことに価値があると思っています。この思いを風化させたくない。コロナ禍から日常が戻っても、子どもたちを巡る現実の問題はあって、むしろ浮き彫りになるかもしれません。だから、誰でもサッカーができる環境を当たり前にしたい。『社会貢献』という言葉を使うようなものではなく、そうした活動が普通になるように、やっていきたいです」