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「子どものサッカーのために借金」支援を受ける31%が回答…新品のスパイクを買えない親たちの“悲痛な本音”「生きるのに精いっぱい」
text by
中小路徹Nakakoji Toru
photograph byGetty Images
posted2022/04/21 06:00
「スポーツを通じて幸福で豊かな生活を営むこと」は、すべての人々の権利だ。しかし、現実には、貧困や社会格差のために、スポーツを存分に楽しめない子どもたちがいる
そう話すのは、同法人代表の加藤遼也さんだ。自身も大学までサッカーをしていた。2011年から、南アフリカ、米国、ドイツなどに渡り、子どもの貧困や教育問題に取り組む国際団体で活動した。そして、目線は日本に。2018年に同法人を設立した。
「サッカーがしたいのに、経済的、社会的な理由でできない。そんな子どもたちの環境を変える取り組みをしています」と加藤さんは言う。
2018年の厚生労働省の調査では、日本の子どもの貧困率は13.5%にのぼった。表には現れにくいが、7人に1人が生活困窮状態にある。
家庭の収入で「子どものスポーツの成功」が決まってしまう
収入が少ない家庭の子どもほど、体力がない――。2020年には、筑波大の清水紀宏教授の研究チームが、そんな「スポーツ格差」があることを、岐阜県多治見市で行った研究で実証して公表した。
保護者9226人と、小5から中3までの子ども計4577人へのアンケートをリンクさせて、家庭の事情と子どものスポーツ活動や体力との関係を調べたものだ。
その結果、高収入家庭の子どもの方が、低収入家庭より体力テストの総合点が高く、地域クラブや民間スクールといった学校外のスポーツ活動への加入率も高かった。
親の時間と富に余裕があるかどうかで、子どものスポーツの成功が決まってしまう。そんな現代社会の実情がある。
でも、冒頭にスポーツ基本法の理念を記したように、スポーツをする機会が不平等であるなら、その解消は社会的な課題だ。
「だからこそ、サッカーを好きになった子どもたちと家族が、安心してサッカーを楽しめる環境を育てていきたいのです」。加藤さんは意を強くする。
Jリーガーの驚き「やりたいのにできない子どもが日本にもいる」
同法人の応援事業を支えるのは、寄付をする個人や法人、クラブと、17人の男女の選手たちだ。選手は年俸の1%を寄付に充てる。
その1人が、Jリーグ・サガン鳥栖のMF森谷賢太郎。
「コロナ禍で試合や練習ができなかった時、サッカーを何のためにやるのか、を考えました。そんな中、自分たちが当たり前のようにやってきたサッカーを、やりたいのにできない子どもたちが日本にもいることを知り、びっくりしました」
森谷は支援に加わったきっかけをそう話す。そして、応援事業を通じて、「自分がパワーをもらい、試合でのパフォーマンスに好影響をある」という。それをもたらすのは、子どもたちとの交流会だ。
応援事業では、選手たちと子どもたちのオンラインの交流会が月に一度、開かれる。
「最初はしゃべらなかった子が、回数を重ねるにつれて、打ち解けてくれる。お互いにサッカーを楽しもうというパートナーとしての関係が築けています」
毎月、みんなで目標を決めるそうだ。選手たちも決める。「試合で何点とる」「私生活ではこうする」と。
「目標に向かって、一緒に頑張れるのがうれしい。そして、この交流を横で親が聞き、笑顔になっていることが想像できます」