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連続完投で決勝→猛打の大阪桐蔭に大敗…「金足農・吉田輝星と近江・山田陽翔」の一致に見る“7日で500球以内”への憂慮 

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広尾晃

広尾晃Kou Hiroo

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posted2022/04/02 06:01

連続完投で決勝→猛打の大阪桐蔭に大敗…「金足農・吉田輝星と近江・山田陽翔」の一致に見る“7日で500球以内”への憂慮<Number Web> photograph by Nanae Suzuki

センバツ決勝、大阪桐蔭戦で先発した近江・山田陽翔

<個人投球数10傑>
山田陽翔(近江/滋賀)5登594球44回30安33三 率2.25
古川温生(金光大阪/大阪)3登412球28回16安21三 率0.32
香西一希(九州国際大付/福岡)3登365球27回20安16三 率2.33
宮城誇南(浦和学院/埼玉)3登305球23.1回8安27三 率1.16
マーガード真偉輝キアン(星稜/石川)3登276球16.2回13安17三 率0.56
成田陸(国学院久我山/東京)3登243球16回17安11三 率1.69
佐山未來(聖光学院/福島)2登240球17回20安9三 率4.76
森山陽一朗(広陵/広島)2登235球14.2回12安9三 率1.23
川原嗣貴(大阪桐蔭/大阪)3登229球18回13安19三 率1.50
麻田一誠(和歌山東/和歌山)2登213球13.1回13安2三 率4.12

 近江の山田陽翔は、1回戦から決勝まで投げ続けた。決勝前の段階で球数は549球になっていたが、初戦が3月20日で決勝は3月30日。日本高野連が定めた「7日500球以内」では1回戦の球数はカウントされないので、決勝で投げることも可能だった(7日500球以内の規定そのものが“大甘”との批判もあるが)。

 近江は近年、複数投手制を敷いて戦ってきたチームの1つ。しかし、今大会の山田は1回戦で延長13回165球を投げただけでなく、2回戦、3回戦も完投。準決勝でも延長11回170球を投げている。

 さらに山田は準決勝で左くるぶしに死球を受け、足を引きずっていた。決勝前のブルペンでも通常の状態ではなかったとされる。3回途中45球で降板したが、累積の球数を踏まえても厳しい状態だったと言える。

近江・山田に思い出す2018年夏の吉田輝星

 今年の山田を見て、2018年夏の甲子園で1回戦から5試合連続で完投し、決勝に進んだものの大敗した金足農・吉田輝星(現日本ハム)を想起する人もいるだろう。この時も大阪桐蔭が吉田輝星から12点を奪って降板させたのだ。

 吉田輝星の投球から「球数制限」の議論が起こり「7日500球以内」という規定が生まれた。それ以降、多くの高校では、複数の投手を起用するようになった。

 今大会のセンバツで優勝した大阪桐蔭は川原嗣貴(229球)、前田悠伍(198球)、別所孝亮(78球)、南恒誠(17球)と4人の投手を起用している。一方、2試合以上戦ったチームで1人しか投手を起用しなかったのは九州国際大付(香西一希)、聖光学院(佐山未来)の2校だけだった。

 「7日500球以内」という規定の導入以来、有力選手を集められる私立校と、公立校での“投手格差”という側面は存在するが――多くの高校は意識が変わって「複数の投手を育成し、継投策で戦う」ことが主流になってきた。この規定を「500球まで投げさせることができる」と解釈するのは、時代の流れに沿っているとは言えない。

 今大会の近江は京都国際がコロナ禍によって出場辞退したことで、3月17日になって急遽出場が決まった。また滋賀県勢の春の甲子園での決勝出場は史上初めてのことだった。そういう事情はあったにせよ、投手起用に関しては再認識があってほしいと願う。

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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