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格闘技PRESSBACK NUMBER
「私たちはさ、消費されることにものすごく敏感だよね」ジェーン・スーと青木真也はなぜ“ロイホの3時間”を大事にするのか?
text by
曹宇鉉Uhyon Cho
photograph byYuki Suenaga
posted2022/03/25 17:00
お互いに“ソウルメイト”と認め合うジェーン・スー(48)と青木真也(38)の特別対談
青木 善玉をやっちゃうと、潰されるなと思ったんですよ。曖昧な綺麗事を言えば、わりと多くの人を先導できることはわかっていたんです。ただ、それは僕のやりたいことではなかった。「そこは絶対にお前らには渡さないぞ」というのはずっと思っていました。
スー でも、清く正しく振る舞わないと、やっぱりすごくわかりづらい人になっちゃうんですよ。当時は今よりも圧倒的に青木真也を嫌いな人が多かったし。
「メディア作の青木真也」ではないイメージが流通し始めた
――逆に言うと、ここ1、2年で青木真也ファンも増えていると感じます。
スー それはめちゃめちゃありますね。私はこの10年ずっと「青木真也」でネット検索していますから(笑)。
青木 ようやく僕の言っていることがみんなに伝わって、理解してもらえるようになったんですかね。伝え方がうまくなったのかもしれませんけど。
スー 浪花節というか、キャリアに影響が出るような身体の壊し方をしてでも、ど根性でファンの期待を背負う、みたいなものが美学だった時代から、個人としての幸せを大事にしていくタイプの方が人を不安にさせない時代に変わったんだと思いますよ。青木さん自身が言っていることはずっと変わっていない。
青木 相手の腕を折ったとき(2009年大晦日・廣田瑞人戦)や、長島☆自演乙(☆雄一郎)とやったとき(2010年大晦日)は、周りにヒールの役回りをできるやつがいなかったからそう振る舞っていた、というのもあります。当時から「キャリアのどこかでベビーターンしなきゃな」とは思っていました。たぶん格闘技において再度ヒールターンすることはないでしょうね。
――評価が裏返り始めた明確なきっかけのようなものはあったのでしょうか?
青木 格闘技の業界内の話なんですけど、2017、8年くらいに「コイツにはなにを言っても通じないな」という合意がようやく形成されたんですよ。「これは俺の意見であり、論評だから絶対に引かない」というのをやり続けた結果、「最終的に俺たちを潰しにこないならいいや」と思われたことで潮目が変わったんじゃないかな。
スー ONEに行ったことも大きかったんじゃないですか。舞台の大きさやプロモーション映像なんかも含めて、「あっ、この人は世界で認められているすごい人なんだ」と理解された。あとは継続による説得力ですかね。私がテレビでDREAMを見始めた2008年ごろからトップ選手で、いまだにこのレベルで現役の人って皆無ですし。青木さん自身がnoteで文章を書き始めて、メディアが作った「青木真也」ではないイメージが世の中に流通し始めたのもありますね。
青木 なにより僕はいまでも毎日練習しますし、自分で言うのもなんですけど、日本で一番格闘技の知識量や、考える能力があると思っているので。結局、そこへの信用がでかい気がします。
2人が共感する「消費されることへの怖さ」
――スーさんは青木さんのどんなところにシンパシーを感じますか?
スー 知り合ってびっくりしたのは、「メジャーにならなくていい」という価値観を共有していたことですね。