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ぱんちゃん璃奈が13戦全勝で文句なしの「トップファイター」に…それでも“若い女子選手ならでは”の偏見、SNS誹謗中傷との闘いが続く

posted2022/03/23 11:05

 
ぱんちゃん璃奈が13戦全勝で文句なしの「トップファイター」に…それでも“若い女子選手ならでは”の偏見、SNS誹謗中傷との闘いが続く<Number Web> photograph by Norihiro Hashimoto

3月12日、KNOCK OUT後楽園ホール大会のメインに出場し、喜多村美紀に判定勝ちを収めたキックボクサーのぱんちゃん璃奈

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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Norihiro Hashimoto

「選手は野球をするのが仕事なんじゃありませんよ。勝つことが仕事なんです」

 海老沢泰久の小説『監督』の主人公・広岡達朗の言葉である。名言であり正論だ。ただ現代ではスポーツ選手に求められる“仕事”も変わってきた。とりわけプロ格闘技は。

 競技をするだけでなく、勝つだけでもなく、観客を魅了してこそのプロ。「そうではない、勝つことだけで十分に難しいし価値があるんだ」と言うには、かなり腹を括る必要がある。会見などでのコメント、SNSでのアピールで自分に付加価値をつけることも重要になっている。勝手に“アンチ”が湧いて出てきたりもする。強くなること、勝つことだけを考えていられる格闘家は、日本に何人いるだろうか。

 3月12日、女子キックボクサーのぱんちゃん璃奈はKNOCK OUT後楽園ホール大会のメインに出場し、喜多村美紀に判定勝ちを収めた。試合はBLACKルール(ヒジ打ちなし)ミニマム級王座決定戦。アトム級に続いて2階級制覇だ(アトム級は46kg、ミニマム級は47.5kg)。

 試合は昨年9月以来と少し間隔があいた。もともと喜多村戦は1月に行なうはずだったのだが、ぱんちゃんの新型コロナウイルス感染によって延期になっていた。

「最初の3、4日は頭が痛くて1日中寝てました」とぱんちゃん。練習は2週間できなかった。キックボクサーになって初めてのことだ。正直にいうとモチベーションが下がった。それでも半年ぶりの試合で、より成長を見せられると気持ちを切り替えた。曰く「倒せる確率が上がったと考えました」。

“キューティー・ストライカー”への偏見とアンチ

 プロデビュー以来、今回の試合で13戦全勝となった。ただ自分で納得できた試合は少ない。KOで勝ちたいが、なかなかそれができない。試合後に涙を見せることもあった。彼女もやはり“ただ勝つだけではダメ”と考えるファイターだった。

 倒して勝つことで、実力を認めさせたかった。“キューティー・ストライカー”というキャッチフレーズがつき、キャリア初期からメディアにも注目された。ファンも多い。そうなると偏見を持たれがちだしアンチも出てくる。

 現在のキック界はキッズ、ジュニア年代から活躍してきた選手も多い。主戦場のKNOCK OUTは女子の層が薄いという事情もある。大人になってからキックを始めたぱんちゃんは、他団体の選手に負けない実力があることを証明しようと躍起になった。学生時代は陸上に打ち込んだがオーバーワークによるケガで競技を断念。無為の日々を脱するきっかけになったのがキックボクシングだ。大げさでなく人生が変わった。だから人生をかけて打ち込んでいる。

【次ページ】 「効くって分かると気持ちいい。興奮しちゃいました(笑)」

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