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“柔道家”プーチンに贈られた、創始者・嘉納治五郎直筆の“2つの書”とは?「柔道精神との隔たりを感じざるを得ない」《ウクライナ選手は悲痛発信》 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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posted2022/03/13 11:02

“柔道家”プーチンに贈られた、創始者・嘉納治五郎直筆の“2つの書”とは?「柔道精神との隔たりを感じざるを得ない」《ウクライナ選手は悲痛発信》<Number Web> photograph by Getty Images/JMPA

(左)“柔道家”としても知られていたプーチン大統領(右)ウクライナの柔道家ダリア・ビロディド

プーチンに贈られた、柔道創始者直筆の「2つの書」とは?

 大統領に就任したあとの2000年9月に来日した際には講道館を訪ねた。そのとき六段の紅白帯を贈呈されているが、「六段の重みを知っています。この帯を締めることができるように精進したい」と語ったという。また2002年には一般紙の記事に登場し、柔道とは「相手との調和を求めるもの」と語っている。

 その後も来日時は講道館に足を運ぶなどし、また海外でも柔道を通じて交流する中で、「2つの書」がプーチンのもとに贈られている。

 2005年の来日時、現在は全日本柔道連盟会長、そして日本オリンピック委員会会長を務める山下泰裕氏が柔道の創始者である嘉納治五郎直筆の書「自他共栄」を贈った。

 2017年にはウラジオストクで行なわれた日ロ首脳会談で安倍晋三首相(当時)がプーチンにやはり嘉納治五郎直筆の「精力善用」の書を贈呈している。第二次世界大戦前に書かれ、講道館で所蔵されていたものだ。

嘉納の指針とプーチンの行為には大きな隔たりがある

 この2つの書は、嘉納治五郎が柔道の指針として掲げた言葉だ。

「自他共栄」は、「互いに信頼し助け合うことができれば、自分も世の中の人も栄えることができる。そうした精神を柔道で養い、自他共に栄える世の中を作っていこう」ということを意味している。

「精力善用」には、「柔道で鍛えた心と体を用いて相手をねじ伏せる、威圧するのではなく世の中の役に立つことに使おう」という意味だ。

 これらの言葉に、創始者としての柔道の理想が込められている。言葉の意味とともにそれを思い、また2つの貴重な書が手渡されたこと、その相手が現在なしていることを考えると、その隔たりの大きさを痛切に感じざるを得ない。柔道への敬意をしばしば表し、ときには人生の指針であるという趣旨の発言もプーチンはしてきたことを思えば、なおさらだ。

【次ページ】 プーチンが本当に柔道の精神を知っているのであれば…

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