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“柔道家”プーチンに贈られた、創始者・嘉納治五郎直筆の“2つの書”とは?「柔道精神との隔たりを感じざるを得ない」《ウクライナ選手は悲痛発信》
posted2022/03/13 11:02
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
Getty Images/JMPA
およそ半年前、彼女はこのような事態を想像していただろうか。
昨年の7月24日。その日、東京五輪柔道女子48kg級が行なわれた。3位決定戦で勝利し銅メダルを獲得したあと、ダリア・ビロディド(ウクライナ)は涙を流した。世界選手権で2連覇を遂げ、オリンピックも世界ランキング1位で臨んだ。優勝を期した大会で、だが準決勝で渡名喜風南に敗れての銅メダルだった。悔しさがあった。それでも、こう語った。
「コーチ、母国、自分のために銅メダルを獲ることができてよかったです」
金メダルではなくともウクライナでは柔道女子初のメダルだった。だからウクライナのメディアをはじめ、歓喜とともに称賛が寄せられた。
ビロディドの夢…しかし状況は一変した
それでもやはり、ビロディド本人は世界一になれなかったことへの悔しさが募った。
「私にはまだ夢があり、誰にもその夢を奪わせません」
2024年のパリ五輪での金メダル獲得を目標に据えた。そこへの道をまっすぐに見つめていたはずだった。しかし今、状況は一変した。ロシアによるウクライナ侵攻を機に、SNSでしばしば訴えている。ロシアへの抗議を、ヨーロッパ、そして日本に向け、母国への支援を。今、畳の上に立つことはできないだろう。
柔道家としてのビロディドを思うとき、もう1人、柔道家としての側面を持つ人物の顔が浮かぶ。ウクライナへの侵攻の責任者である大統領のウラジーミル・プーチンだ。
プーチンは14歳の頃から柔道を始め、柔道においても日本との長年の交流を続けてきた。