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那須川天心戦へ、武尊の仕上がりに不安? エキシビションで「軍司のパンチをもらっているようでは」の声も…“正面突破”がカギに

posted2022/03/09 11:00

 
那須川天心戦へ、武尊の仕上がりに不安? エキシビションで「軍司のパンチをもらっているようでは」の声も…“正面突破”がカギに<Number Web> photograph by Takao Masaki

2月27日、軍司泰斗とのエキシビションを行った武尊

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橋本宗洋

橋本宗洋Norihiro Hashimoto

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Takao Masaki

 本気だが、100%の全力ではない。そんな不思議な闘いだった。その不思議さにポイントがあった。

 2月27日、K-1の東京体育館大会。メインイベント前のリングに上がったのはエース・武尊だ。格闘技ファンなら誰もが知っているように、彼は6月に那須川天心との“世紀の一戦”を控えている。

 前回の試合は昨年3月。負傷によりリングから離れていた。那須川戦がこのタイミングになったのもそのためだ。6月までに1試合挟みたいというのが武尊の希望だった。リングに上がる緊張感はある程度の間隔で味わっておいたほうがいいし、試合勘を鈍らせないことも大事だ。ひたすら練習で追い込むだけでなく、トレーニングに周期的なピークを作る意味もあるだろう。

 そこで組まれたのが、軍司泰斗とのエキシビションマッチだ。軍司は武尊(スーパー・フェザー級)の一つ下のフェザー級でベルトを巻いている。K-1アマチュア大会と高校生トーナメント「K-1甲子園」で優勝。プロでは系列イベントKrushに続きK-1でもチャンピオンになった。競技ピラミッドの全段階を制覇したことから“K-1の申し子”という異名もある。

 これまでK-1を盛り上げ、4カ月後にキャリア最大の闘いを控える武尊。これからのK-1を引っ張っていく軍司。新旧チャンピオン対決は、K-1のイズムを継承していくためのものでもあった。

周囲の声「このままで那須川戦は大丈夫なのか?」

「今日は軍司選手とやることに意味があった。これからK-1を引っ張っていく選手と殴り合って、いいパワーをもらいました」

 対戦後の武尊はそうコメントしている。やるからには手抜きなし。エキシビションながら、どちらも公式戦と変わらない練習を積んだ上で大会当日を迎えたそうだ。契約体重がない中で、減量もしていた。「本気」の仕上がりだ。

 とはいえ、これはあくまで6月を見据えてのエキシビション。100%の全力だったかというと、やはりそうではなかった。「ケガがないように」という意識は当然、ある。グローブは公式戦より大きく、スネにもプロテクター。その中でどれだけのものを見せられるか、何を掴むかというエキシビションだ。

 武尊はいつものように前に出る。その姿には迫力があった。いわゆる“顔見せ”で上がっているリングではないことが伝わってきた。軍司としても新世代のチャンピオンとして退けない。前に出てパンチを繰り出し、激しい打ち合いになる場面もあった。

 2分2ラウンド、勝敗なしのエキシビション。シビアな“勝負”とは言えず、観客を熱狂させるところまではいかなかった。内容に不満や疑問を持つ者もいたようだ。武尊の本領が見られなかった、軍司のパンチをもらってもいて、このままで那須川戦は大丈夫なのかと。

 “武尊が軍司を圧倒して那須川戦に向け絶好調をアピール”。そんな光景が見たかったという人もいるだろう。実は筆者もそうだった。だが、エキシビションが近づくにつれて、それは武尊が設定したテーマではないのだろうと感じた。

【次ページ】 “那須川戦のシミュレーション”ではなかった

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