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高梨沙羅が「もうひとりのサラ」に勝利し、観衆を魅了した“10年前、伝説の大ジャンプ”とは…「一日11時間勉強」の超ストイック秘話も 

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松原孝臣

松原孝臣Takaomi Matsubara

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photograph byGetty Images

posted2022/03/09 17:00

高梨沙羅が「もうひとりのサラ」に勝利し、観衆を魅了した“10年前、伝説の大ジャンプ”とは…「一日11時間勉強」の超ストイック秘話も<Number Web> photograph by Getty Images

ライバルとして互いをリスペクトする高梨沙羅とサラ・ヘンドリクソン。ヘンドリクソンは2021年に現役引退を表明した

高校はインターナショナルスクールヘ

 ワールドカップ初優勝を遂げた2012年3月の蔵王大会の翌月、高梨は北海道旭川市内にある「グレースマウンテン・インターナショナルスクール」に進学した。

 高梨は、ユースオリンピックをはじめ、数々の海外遠征を経験する中で、英語の重要性を感じていた。ユースオリンピックでは、英語のインタビューも受けたし、初めての総合大会で多くの国々の選手と出会い、「もっと会話ができればいいのに」という思いに駆られた。

「英語ができればいろいろな人とも話をすることができるし、大会で緊張することもなくなっていくと思います」

 グレースマウンテン・インターナショナルスクールは英語教育で定評がある。だから選んだ進学先だったが、そこにも高梨の計画性、着実さがあった。

 その4カ月後の8月28日、高等学校卒業程度認定試験に合格する。高等学校卒業程度認定試験とは、高等学校を卒業した者と同等以上の学力があるかどうかを認定するための試験である。合格者には大学・短大・専門学校の受験資格が与えられる。

 実際に大学などの入学試験の受験資格が有効になるのは満18歳になってからだが、入学してわずか4カ月で、高校3年間で習得すべき学業のレベルに達したことを意味する。同スクールでも、この時期に合格する生徒は初めてだという。

 しかも、入学してから試験のあった8月の初旬まで毎日学校に通うことができたわけではない。遠征に出ている日も少なからずある中で合格したのである。

「11月にも試験があったから、8月に落ちた教科はそこで受けようと思っていたのに、全部受かってしまってびっくりでした」

 自ら驚きを見せつつ、勉強方法について明かす。

「朝の5時半には家を出て始発電車に乗って、電車の中でも勉強をやったりして、一日11時間くらいは勉強していました」

 早期の合格を目指したのは、いち早く競技に向かえる態勢を整えたかったのが理由だったが、目的があったとはいえ、その努力と集中力はやはり、並はずれていた。

 人は多かれ少なかれ、挫折を味わう。それが人生のどの時期かはともかく、入試、就職、あるいは社会人になっても、仕事上であったりプライベートであったり、挫折を感じることがある。傍目にはそれと無縁であるように見えるほど、ひとつずつ努力を積み重ねていた高梨は、2012年から2013年のシーズンを迎える。<後編へ続く>

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#2に続く
「足が砕けてもテレマークを入れます」高梨沙羅16歳がライバル対決で示した“プライドと執念”《涙の北京五輪後にW杯で復活優勝》

記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。

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