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早大卒・中村太地七段が語る“結構オチャメ”な棋士の学生生活 「テストと対局が同日だと大変」「時効ですが授業をサボって…」 

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中村太地

中村太地Taichi Nakamura

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photograph byTomosuke Imai/BUNGEISHUNJU

posted2022/03/05 11:04

早大卒・中村太地七段が語る“結構オチャメ”な棋士の学生生活 「テストと対局が同日だと大変」「時効ですが授業をサボって…」<Number Web> photograph by Tomosuke Imai/BUNGEISHUNJU

中村太地七段は早稲田大学に在学しながら棋士として戦った時期がある

テストと対局日が一緒だった時、どうしていたの?

 早大では政治経済学部に進学しました。ただ実は、法学部の方が興味はあったんです。「FBI捜査官になりたい」という幼少期の夢もあって、ですか? いえいえ(笑)。ただ、法律を学びたいとの気持ちがあったことは事実です。ただしそこには将棋との両立で考えなければいけないことがありました。

 当時の法学部は“出席について非常に厳格”だという噂を耳にしました。講義に出たいけれども棋士としての対局がある中で、やっぱり欠席せざるを得ない日が増えてしまうのでは、という現実問題を考えました。その際に政治経済学部の方が比較的やりくりできそうで、なおかつ高校の授業で政治経済にも興味を持ったというのが決め手になりました。

 大学では中学・高校とはさらに違う課題と向き合ったな、と感じています。単位をしっかりと取る、出るべき授業は出席するという前提がある上でも、自分の裁量の上で学業を選択していくスタイルになります。

 さらにその上で将棋の研鑽に励む。自分を律することはこんなにも難しいのか、とは感じることはありました。時効だと思うので言いますが――授業をサボって、ヒマつぶしとして大学の将棋部に顔を出したこともあります(笑)。

 数少ないですが「棋士と学生の両立は大変だな」と思ったのは、大学のテスト期間と対局がかち合ってしまった時ですね。

 同時進行で勉強と将棋の研究を続けるのは受験時に経験していましたが、テスト日と対局日が全く同じ時は……もう、教授に頼み込む以外ありませんでしたね。「将棋棋士の活動をしているので、どうしても出られず……」と。教授ごとに対応は人それぞれで、代替案を示してくれる方もいましたし、「やっぱりその日受けられないとダメかなあ」との結論に至って、テストの点数を引かれてしまったり。人生は色々です(笑)。

将棋界と1つ違うコミュニティに所属できた

 その中でも興味のある学問は数多かったです。卒論のテーマは「無党派層の政党好感度 政策と業績評価からのアプローチ」を研究しました。私が入ったゼミは「原因と結果の結びつきを探る」というポイントで、世論調査のデータを使って相関関係を見つけていくような研究をしていました。

 それは将棋の「こういった理由があるからこの一手を指す、こちら側が優勢」と論理的に思考していくところと共通点があると感じました。その探る作業を私自身が面白く感じたのがモチベーションになったのだと思います(※編集註:この論文で当時の中村四段は「政治経済学術院奨学金」を授与された)。

 学業についてお話ししましたが……大学については勉強を遮二無二頑張るというよりも、人間として豊かになるために進学した側面があります。

【次ページ】 将棋界全体を見渡すと、さらに“超人的”な方々が!

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