濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「年間ベストバウトだ!」スターダム地方大会に海外も熱狂…キッドvs.AZM、ハイスピードの“黄金カード”はいかに生まれたか?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/02/28 17:01
2月23日に行われたハイスピード選手権試合にて、“年間ベストバウト級”の名勝負を繰り広げたスターライト・キッドとAZM
昨年12月29日の両国国技館大会では3WAY(3人同時対戦)でベルトを争った。AZMの挑戦表明に、やはりハイスピードを得意とするコグマが割って入ったのだ。キッドがコグマの挑戦を認めたことに「ちょっとがっかりした」とAZM。自分とキッドの2人だけで両国のリングに立ちたかったのだ。
試合はキッドがコグマから3カウントを奪い、王座防衛。一騎打ちは必然の流れだった。2月1日、キッドはなつぽいとドローで5度目の防衛に成功。タイトル史上初の“聖地”でのメインイベントだった。キッドがベルトの“格”を上げたのだ。
試合後、あらためてAZMがタイトルマッチを迫る。
「キッドと私の空間は、もう誰にも邪魔させない」
AZMは握手を求めたが、キッドはこれを拒否。しかし別のところで気持ちを表していた。1.29名古屋大会、タッグマッチでキッドがAZMに勝利した際のフィニッシュはスパニッシュフライ。コーナーから相手の頭を抱え、自ら後方宙返りしてマットに叩きつける大技だ。キッドはこの技にオリジナルの名前をつけた。「Eternal foe」、その意味は「永遠の敵」である。AZMは単なる敵、ただの対戦相手ではなかった。
ユニット抗争の枠を超えたタイトルマッチ
キッドが属するユニット大江戸隊と、AZMのQueen's Questは抗争を展開している。しかし2人のタイトルマッチは、その枠を超えていた。2.23長岡大会に向けた記者会見。4番目にカードが発表されると、キッドは「みんなが待ってたキッドvs.AZM、第4試合で満足できるわけない。大会の中で一番注目されるべきカードだろ」とぶちまける。「確かに」とうなずくAZM。キッドがファン投票による試合順決定をアピールすると、AZMも同意した。
「ファン投票、凄くいいと思う。私たちはデビュー当時からシングルマッチを組まれて、勝ったり負けたり負けたり勝ったり。今は(対戦が)プレミアム化してると思う。私たちはどっちかが引退するまでバチバチやっていくし、やっていきたい。そしてこのタイトルマッチは、私たちの歴史に刻まれるもの」
ファン投票を求めたキッドには、以前からの狙いがあった。女子プロレスは基本的に体重無差別だが、ハイスピード王座は小さい、軽い選手のためのタイトルという雰囲気がある。男子でいう“ジュニア”だとキッドは感じた。
対して“赤いベルト”ワールド・オブ・スターダムや“白いベルト”ワンダー・オブ・スターダムはヘビー級に相当する。あくまで主流はヘビー級の赤と白。そんな不文律をキッドは壊したかったのだ。覆面レスラーのままスターダムのトップに立ちたいという野望もある。
だが、ファン投票の結果は2位だった。1位=メインに選ばれたのは上谷沙弥vs.なつぽいのワンダー王座戦。キッドにとってもAZMにとっても悔しいセミファイナルになった。だが、だからといってやることが変わるわけではない。むしろ、こういうシチュエーションでこそ燃えるのがプロレスラーだ。