濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「年間ベストバウトだ!」スターダム地方大会に海外も熱狂…キッドvs.AZM、ハイスピードの“黄金カード”はいかに生まれたか?
posted2022/02/28 17:01
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph by
Norihiro Hashimoto
2月23日、新潟県で行なわれた試合が世界的な話題となった。
女子プロレス団体スターダムのアオーレ長岡大会。セミファイナルのハイスピード選手権、スターライト・キッドvs.AZMが、ネット中継を通じて海外のファンも熱狂させたのだ。
「絶賛の声が大量に寄せられている。ハイスピード王座戦史上最高と言われ、オカダ・カズチカvs.ウィル・オスプレイを超える年間ベストバウト候補という者も」
そうツイートしたのは『レスリング・オブザーバー』を発行するデイブ・メルツァー。約27万人のフォロワーがいるジャーナリストの影響力は大きいはずだ。引き合いに出されたオスプレイ自身、メルツァーのツイートを引用してこう書いた。
「真面目な話、AZMとキッドはreal deal(本物)だからな。驚きはしないよ」
“闇堕ち”で輝きを増したキッド
ハイスピード王座は、テクニカルでスピーディーな選手たちを主な対象としたタイトルだ。チャンピオンのスターライト・キッドは、昨年下半期に一気に名を上げた。揺るぎないベビーフェイスから一転、ヒールユニット大江戸隊に“強制移籍”。それを機にマスクとコスチュームを黒に変えて“闇堕ち”することで輝きを増した。対戦相手に遠慮なく毒づき、場外でのラフファイトも。
自由奔放な魅力に加え、思い切って自分を変えた腹の括り方も含めてファンは支持した。昨年のスターダム年間表彰では、ファン投票で決まるSHINING賞を獲得している。どの賞よりも名誉なことだとキッドは感じた。
8月にはなつぽいからハイスピード王座を奪取。8度目の挑戦での戴冠だった。王者になるまでさんざん苦労させられただけに、キッドは「ムカつくベルト」だと言う。だからこそ手放したくなかった。
「ハイスピードのチャンピオンとして(新日本プロレスの)東京ドームのリングに上がって、単独で『週刊プロレス』の表紙になって。自分を闇の中で輝かせてくれたのがこのベルトだし、私がベルトを輝かせることもできた」
キッドにとってAZMは「永遠の敵」
そう語るキッドを倒すのは誰か。大本命と見られていたのがAZMだった。2代前のチャンピオン。“高速爆弾娘”の異名もある。いわばハイスピードの申し子だ。19歳ながらキャリアは長い。2011年、9歳でプロテストに合格し2013年に正式デビュー。技の正確さや試合運びの巧さはスターダムでもトップクラスと言っていい。
キッドとAZM。同世代の2人はこのベルトをかけて何度も闘ってきた。AZMがベルトを巻いた時の相手もキッドだった。
「キッドとは子供の頃から一緒。大人たちに囲まれながらプロレスをやってきました」(AZM)
団体が今ほど盛り上がっていなかった時期も知っている。「まだ若いから、子供だから」と言われながら実力を磨いてきた。おそらくキッドの気持ちはAZMが、AZMの気持ちはキッドが一番よく分かる。AZMはキッドを「永遠のライバル」と呼び、キッドはAZMについて「いてもらわなきゃいけない人間」だと語っている。