濃度・オブ・ザ・リングBACK NUMBER
「年間ベストバウトだ!」スターダム地方大会に海外も熱狂…キッドvs.AZM、ハイスピードの“黄金カード”はいかに生まれたか?
text by
橋本宗洋Norihiro Hashimoto
photograph byNorihiro Hashimoto
posted2022/02/28 17:01
2月23日に行われたハイスピード選手権試合にて、“年間ベストバウト級”の名勝負を繰り広げたスターライト・キッドとAZM
会場の誰もが「これでキッドの勝ちだ」と思った瞬間…
17分3秒、2人は動きまくった。文字通りのノンストップ、緻密にして破天荒だった。キッドがラ・ケブラーダを決めればAZMはリングの対角線を全力疾走してコーナーに駆け上がり、鉄柱を飛び越えて場外にダイブ。丸め込みの攻防では、レフェリーが数えきれないほどマットを叩いた。
いつもの試合ならフィニッシュになるAZMのダイビング・フットスタンプ、キッドの変型ドライバー「黒虎天罰」でも試合は終わらない。相手の技を未然に防ぎ、切り返す場面も目立った。それだけ相手のやることを熟知しているのだ。
Eternal foeが決まった時には、会場の誰もが「これでキッドの勝ちだ」と思ったはずだ。ところがAZMは、マットに落とされた瞬間にキッドの腕を取りワキ固めへ。おぉっ、という声が思わず漏れ、会場に充満する。前日から大雪に見舞われた長岡だが、この試合で会場内の気温が上がった気さえした。
AZMはハイキックからカナディアン・デストロイヤーでキッドの頭をマットに打ち付ける。そして丸め込み合戦から、両腕を固める関節技ヌメロ・ウノ(No.1の意)でAZMが勝利を掴んだ。“写真判定”とでも言えばいいのか、最後の瞬間までどちらが勝つか分からないスリリングな名勝負だった。なにしろキッドとAZMだ。どちらが勝っても負けても“予想通り”とは言えない。それが永遠のライバルというものだ。
キッドはタイトルマッチで勝つたびに、用意したマスクを相手に被せ、首を掻き切るパフォーマンスをしてきた。今回は同じことを敗者として求めたが、AZMは拒否する。かわりにAZMは拳を突き出し、キッドも応じてグータッチ。言葉ではなく行動で心情を示したのも2人らしかった。お互いが何を考えているか、伝えるまでもなかったということだろう。
昨年3月、なつぽいに敗れてベルトを失ったAZM。約1年ぶりの戴冠に、インタビュースペースでは「長かった。辛かった」と漏らした。
「1回目(の戴冠)は私がベルトに成長させてもらった。今度は私がこのベルトを成長させてあげたい」
キッド「やっぱり私のEternal foeはAZMしかいない」
3月26日、27日には両国国技館大会が開催される。「誰でもかかってきてください」と言ったAZMだが、以前「今度ベルトを獲ったら、もっと他団体の選手とやりたい」とも言っていた。これから、AZMがチャンピオンであることによってスターダムにもたらされる刺激があるはずだ。
一方“虎の子”のベルトを失ったキッドは、在位期間を「濃い半年間だった」と振り返った。さらに「お互いの気持ちを出し切って、その上で今日はAZMのベルトに対する気持ちが上回ったということ」と新王者を讃える。
「やっぱり私のEternal foeはAZMしかいない。そう再確認できた」