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「最近の子は、ほんとにすぐ野球部をやめる」高校野球界でタブー視されてきた“スカウト”が中学野球の現場に…どんな仕事をしている? 

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安倍昌彦

安倍昌彦Masahiko Abe

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posted2022/02/24 17:02

「最近の子は、ほんとにすぐ野球部をやめる」高校野球界でタブー視されてきた“スカウト”が中学野球の現場に…どんな仕事をしている?<Number Web> photograph by Getty Images

中学野球の現場で出会った、ある高校の「野球部スカウト」。以前はタブー視されていた存在だというが、スカウトの方はどんな仕事をしているのだろうか?

 優秀な中学生を探して、入学を勧め、野球部の戦力として入学させることが「スカウト活動」だとするならば、そういうことは50年も前の、私たちの高校時代にも、いくらでもあったことだ。

 聞いた話でよければ、太平洋戦争前から、優秀な選手を強豪チーム同士で獲り合うことはあったそうだ。

 ただ、高校野球の世界に関していえば、おもて向き、「スカウト活動」は長いことタブーとされていた。

 公然と語ることも、書くことも、もちろんあからさまに活動することもタブーだった。

 それどころか、スカウトという肩書きの名刺を持つ関係者が現場に訪れるのは、およそ考えられないことであり、あってはならないことだった。高校球界の「スカウト活動」は、いつもブラックなイメージを帯びて語られていたからだ。先ほどのスカウトの方はこう話す。

「スカウトっていうと、こちらのほうが選手を選んで、手練手管を弄して入学に持ち込むって思われがちですけど、私は逆に、選手たちからウチを選んでもらうために活動しているって思いのほうが強いですね。興味を持ってくれた選手やご家族にウチの高校のほんとのところを説明して、自分に合っているかを考えてもらう。そこが私の活動の基本だと思っています」

ギャップに悩んでやめていく選手たち

 優秀な選手を根こそぎ持ってくればいい。確かに、そういう時代はもう過ぎたと思う。

 少年たちが、猫も杓子(しゃくし)も野球、野球……という時代なら、優秀な選手もたくさんいた。しかし、子供の数が減って、興味を持たれる学生スポーツの種類が増えて、限られた数の野球少年たちを、数多くの高校野球部が分け合わねばならない時代だ。

 相田みつを先生じゃないが、「うばい合えば足らぬ、わけ合えばあまる」……まさに、それをスポーツの現場が体現してみせねばならない時代だろう。

「私はずっと外からウチのチームを見てきましたけど、何がかわいそうと言って、ウチに合ってないのに入ってきてしまって、そのギャップに悩んでやめていくケースですよ。ウチはそこそこ厳しい規律もあって、練習量も多いですから、そこに、楽しんで野球やりたいみたいな選手が入ってきても、正直持たない。だから私は、こうして中学のチームを見る時に、まずどんな雰囲気で野球やってるチームか……まず、そこを気にします。部活の軟式でも、高校顔負けの厳しさで練習してるチームもあるし、シニアやボーイズでもすごくフレンドリーな雰囲気のチームもありますから」

あるベテラン監督「今の子は、ほんとにすぐやめる」

 このチームの雰囲気では、カルチャーショックが大きいと判断したら、優秀な選手がいても見送るし、逆に、入りたい!と熱心に訴えられても、よくよく話し込んで、腹をくくって受験してもらうという。

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