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口癖は「目先の一勝より、馬の一生」 世界が認めたトレーナー藤沢和雄70歳がカジノドライヴの米GI挑戦をあっさり諦めた理由
text by
平松さとしSatoshi Hiramatsu
photograph bySatoshi Hiramatsu
posted2022/02/19 11:02
2009年のフェブラリーSで2着に好走した際のカジノドライヴ
口癖は「目先の一勝より、馬の一生」
こうして無事に本番を迎えられたかと思えたが、直前に崩れた天候が思わぬアクシデントを連れて来た。悪くなった馬場のせいか、カジノドライヴの歩様が乱れた。結果、挫跖(ざせき)と診断されてしまったのだ。
「不幸中の幸いにも症状は軽いモノでした。でも、この1戦で競走生活が終わるわけではなく、将来のある馬なので今回は挑戦を断念する事にしました」
藤沢調教師がマスコミの前でそう語ったのはレース当日の朝だった。4月29日にアメリカ入りしてから丁度40日目。藤沢和雄調教師とカジノドライヴのベルモントS挑戦は残り7時間ほどのところで正式に水泡に帰した。“目先の一勝より、馬の一生”と常に口にする藤沢調教師らしい決断だった。
ちなみに無敗の3冠がかかっていたビッグブラウンもまた、カジノドライヴと同様、中間に歩様を乱していた。しかし、脚から爪までバンテージを巻いて出走。結果はブービーからも大差に離され、ほぼ歩くように青息吐息でゴール。公式記録では競走中止扱いをされるほどの大敗を喫してしまった。
世界が認めたトップトレーナーだった
こうして傷心の帰国となったカジノドライヴだが、秋にはブリーダーズCクラシック(GI)に挑戦するため再び渡米。この時は現地で一般戦を勝利してから本番へ向かったのだが、この一般戦も元々は競馬番組に組まれていなかったレース。「ぶっつけでは出走出来ない」という日本陣営の要望に応え、競馬場側が急きょ組んだレースだった。藤沢調教師のあくなき挑戦の姿勢を見た思いがしたものだ。
結局、ブリーダーズCでは結果を残せず(12着)に終わったが、出走馬の中でも最も手入れが行き届いていたと評価された同馬は“Best Turned Out賞”を手にした。
「そんなものより勝利という結果を残さないとダメだったね」
2005年にイギリスのヨーク競馬場で行われたインターナショナルS(GI)に挑戦させたゼンノロブロイが2着に惜敗した際も伯楽は同じセリフを口にしていた。つまり、その時も藤沢調教師が送り込んだ馬がBest Turned Out賞に選定されていたのだ。手をかけて綺麗な馬体に仕上げるか否かは運に左右されない。日本のトップトレーナーを、世界中が認めたという事だろう。2月末で引退となるのが残念でならない。