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「時は来た!」蝶野正洋はなぜ笑った? 裕福な家庭で育った元暴走族の青年が“黒の総帥”に上り詰めるまで
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byYukio Hiraku/AFLO
posted2022/02/10 11:00
「黒の総帥」というキャラクターで人気プロレスラーの地位を確立した蝶野正洋
素顔の蝶野は若手時代に「ラーメンマン」なるあだ名で呼ばれていた通り、お目目パッチリで愛嬌のある表情が作れるタイプ(ライバルの武藤敬司がまさにソレ)ではなく、どちらかというと「陰のイメージ」を与えがちな細い目の持ち主。
ゆえに怒っているのか、笑っているのか、笑いをこらえているのかは読み取りづらい。「時は来た!事件」も、本人談の通り、笑っていなかった可能性もあるのだが、それゆえの悲喜劇だったとも言える。
現在の蝶野は試合中以外、ほぼサングラス姿でしか露出していない。タモリや宇崎竜童、鈴木雅之や横山剣(クレイジーケンバンド)らと同じくサングラス有名人だ。2014年4月(道頓堀プロレス・大阪大会)以来、試合はしていないセミリタイア状態。そのため、かれこれ8年間も「素顔」をさらしていないという計算になる。94年の悪役転向、95年の狼群団結成以来の「黒の総帥」(当時のスポーツ紙はほとんど「黒い総帥」としていた)というキャラクターは強烈で、たとえ試合はしていなくとも、現役感満載でお茶の間に浸透し続けているのはさすがだ。
蝶野のキャラクター戦略
平成生まれの若者たちにとって、蝶野はプロレスラーというより「ビンタの人」と認知されているようだが、そこにはクレバーな蝶野一流のキャラクター戦略が活かされている。
何やらまくしたてた後に、「オラ!」とか「エーッ!」とか恫喝気味の一言(?)を続けて凄むという流れは、「時は来た!事件」の映像を見てもお分かりの通り、悪役転向してからのモノではなく、正統派時代から続いているもの。もっと言えば、若手選手にあるまじきパンチパーマ姿だったヤングライオン時代、すでにあんな感じではあった。
一方でリング外での蝶野は、プロレスラーにしては、極めて常識的で礼儀正しい口調でありつつ、いざスイッチが入ると突如「オラオラ、エー!」となる緩急ありすぎなトーク術。いわば「ツンデレ」の魅力なのだ。