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「時は来た!」蝶野正洋はなぜ笑った? 裕福な家庭で育った元暴走族の青年が“黒の総帥”に上り詰めるまで
text by
高木圭介Keisuke Takagi
photograph byYukio Hiraku/AFLO
posted2022/02/10 11:00
「黒の総帥」というキャラクターで人気プロレスラーの地位を確立した蝶野正洋
若手時代、同期の武藤敬司は前座修行もそこそこに、すぐに米国修行に出され、現地でプロレスラーとしてのアイデンティティを築いた。同じく同期の橋本や船木誠勝(当時・優治)らが当時、新日プロに参戦していた前田日明、高田延彦らUWF勢の姿を見て、キックや関節技などを積極的に取り入れていた頃、アントニオ猪木の付き人でもあった蝶野の視線だけは、他の若手選手とは別ベクトルを向いており、ボブ・オートンJr.やディック・マードックといった来日外国人選手の所作に多くを学んでいたという証言が多い。
さらに合宿所生活では、よくレンタルビデオ店から『仁義なき戦い』シリーズに代表される東映実録ヤクザ映画を借りてきては、夜な夜なリビングにて鑑賞。ボソボソと静かに喋っていたかと思えば、突如語尾に「エーッ!」と付け足しては凄み、相手を威嚇するあの口調は、それらに登場する成田三樹夫や松方弘樹、梅宮辰夫らの演技をモチーフにミックスさせて完成させた模様だ。
バーガーキングのメニューを復唱しているだけ?
さらにさらに。蝶野が試合前に、対戦相手を指さしては挑発し「パタヤパタヤ◎▽■〒%△◆~」と謎の呪文のようなセリフを吐く場面をよく目にしたものだが、あれは米国修行時代によく通っていたバーガーキングのメニューを丸暗記してしまい、それを端から端まで復唱しているだけ……との説。リングサイドにて「パタヤパタヤ~」と聞こえる破裂音は、バーガーキングでおなじみの「ワッパーバーガー」「チーズワッパー」「ダブルワッパー」などがその正体らしい。
さらにさらにさらに。「黒の総帥」となって以降はコスチューム含むイメージカラーを黒系統の色に統一。ビジュアル面でもプロレス界のトップを走る「カッコいい悪役」を体現する存在になった。それは欧州修行中に西ドイツで出会い、91年に国際結婚に至ったマルティーナ夫人の存在が大きい(コスチューム等のデザインを担当)。
蝶野のプロレススタイル同様、無駄をそぎ落としたシンプルかつ上品なデザインのコスチュームやグッズ戦略も、nWoジャパンやT2000時代を経て「アリストトリスト」という独自ブランドまで展開させるようになり、蝶野の魅力を多角的に後押ししている。
さまざまな歴史の積み重ね、独自のアンテナとセンスを持つ本人の研究成果として、あの魅力的なキャラクターが完成しているのだ。