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鍵山優真18歳のジャンプはなぜジャッジに評価されるのか? 個人戦につながった、団体銅メダルの演技に隠された“秘密”を分析
text by
野口美惠Yoshie Noguchi
photograph byGetty Images
posted2022/02/08 17:40
2月6日の団体戦フリーで見事な演技を見せ、銅メダルに大きく貢献した鍵山優真
4回転サルコウもループも、どちらもエッジを使って跳ぶ、“エッジ系”ジャンプ。助走のカーブが似ているため、ループで失敗すると、その失敗した助走をサルコウでも繰り返しやすい。得意の4回転サルコウを先に跳べば、正しい助走を身体が覚えて、そのままループも同じように成功すると考えたのだ。そして、この読みが当たった。
団体戦フリーの本番、冒頭で軽やかに4回転サルコウを決めた鍵山。助走はきれいなカーブで、無駄な力がなく、飛距離があり、そしてフワリと着氷した。ジャッジ9人のうち5人が「+4」をつける、素晴らしいジャンプだった。
その感覚を忘れないまま、4回転ループの助走に入る。サルコウと同様のカーブに乗り、同じ様に軽やかにテイクオフ。空中姿勢は真っ直ぐでブレがなく、柔らかく着氷した。ただし、回転が止めきれずにオーバーターンをすると、両足着氷にはならずに、次の動作へと繋げた。
単に着氷だけを見れば、ミスをしたジャンプだっただろう。しかしジャッジは「プラス評価」と「マイナス評価」の両面を判断することになっている。着氷以外は4回転サルコウと同様に質が高かったため、「高さおよび距離が良い」「無駄な力が無い」「身体の姿勢が良い」といったプラス3項目を満たしているとみなされた。そこから着氷でのミスをマイナスした結果、9人のジャッジのうち、2人がマイナス評価、2人がプラスマイナスゼロ、5人がプラス評価をしたのだ。
さらに4回転ループがプラス評価となったことは、演技構成点(PCS)にも影響した。もしこのミスが、プログラムの流れを止めるようなエラーだとみなされると、演技構成点には上限が設けられてしまう。しかしミスがなかったと認められたことで、演技や音楽解釈の評価は上がった。パーフェクトな演技という印象を与えたことで、「演技」に9.75点を出したジャッジもいた。
「4回転ループは、とにかく僕がやりたかったんです。サルコウやトウループほど確率は良くないですが、ある程度の形は出来ていました。(慎重派の)お父さんにガツンという演技ができたと思います」
そう言って笑った。
「練習だと思って頑張れ」宇野のメッセージに苦笑
精神面でも、新たな手応えがあった。
試合3日前にメインリンクで初練習に臨んだ鍵山は、会場にある五輪マークをみて興奮し、こう話していた。
「本当にオリンピックマークなんだなと思って、早くこの会場で演技をしたいと思いました。この楽しい気持ちを忘れずに過ごしたいです」
しかし3日間の練習の間に、少しずつ心は変化していく。本番朝の公式練習後には、こう感じていた。
「正直、メインリンクでの公式練習ではめちゃくちゃ体力がキツくて、サブリンクのほうが体力は持っていて。そこをどうしようかと思ってたんです」
サブリンクは、いかにも練習場といった客席のないリンク。いつも通り自分に集中して練習できる。しかし1万7000人の収容数を誇るメインリンクからは、無言の重圧を感じていたのだ。