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小林陵侑はなぜ「ライバル失速の大荒れジャンプ台」でぶっ飛べるのか… 日本代表コーチが明かす“重要な修正”とは《伝説に残るNH金》
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph byJMPA
posted2022/02/07 11:55
圧倒的な金メダル候補の前評判に応えた小林陵侑。今後の大ジャンプにも期待したい
ゆっくりとスタートゲートを滑り出し、時速87.6キロで空中に飛び出した。そして、超えれば金メダルを意味する緑のラインを、見事に超えてみせた。本人にもそれが見えたのだろう。着地後は右拳を振り回し、ゴーグルの下の口元は笑っていた。
勝利を確信した兄の潤志郎が真っ先に駆け寄り、2人は「よっしゃー!」と叫びながら抱き合った。
この時点で首位だったフェットナー(オーストリア)は「お見事」とでも言うように、観念した様子で拍手を送った。小林の得点がアナウンスされた。2回目だけの順位では全体5番目だったが、1回目の「貯金」が生きた。フェットナーとは4.2点差。飛距離換算で約2メートルの差をつけ、勝利が確定した。佐藤幸椰と中村直幹も祝福に訪れた。兄と中村に担ぎ上げられると、小林は誇らしそうに日の丸の旗を掲げた。
「実感はまだないですね。メダル持ってないし」
「2本とも集中して、イメージ通りに動けたと思います。(2回目は)さすがに緊張しましたね」
――金メダルについては?
「いや、あんまりなんか、分かんなかったけど……。いつもの仲間が隣にいたんで、こうやって一緒に叫べてうれしいなって思いました」
――実感は?
「まだないですね。まだメダル持ってないし」
この日はメダルが授与されなかったためか、自身が成し遂げた偉業の価値を肌で感じている様子はなかった。
「僕が魔物だったかもしれないです」
2月5日、本欄に掲載した記事で書いた手前、筆者はどうしても聞きたいことがあった。「オリンピックには魔物がいるとよく言われるけど、小林選手にとってはいなかった?」
意外すぎる答えが返ってきた。
「いや、僕が魔物だったかもしれないです」
きょとんとする報道陣から「その意味は?」と追加質問が飛ぶと、笑いながら答えた。
「意味は特にないです。ただ、ぱっと思い浮かんだだけです」
思い出されるのが、総合優勝の大本命として臨んだ18~19年シーズンのジャンプ週間。この時の記者会見で本場欧州のメディアから「自分を表現するなら、どんな人物か」と問われた際、「ネオ日本人ですね」と答えて困惑させたことがあった。
記者会見後に真意を問うと、「(うまく)説明する言葉がなかったので、ネオって言っただけです」と、いたずらっぽく笑った。時々出る「陵侑節」には、常人には理解できない深遠さがある、ということか……。