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小林陵侑はなぜ「ライバル失速の大荒れジャンプ台」でぶっ飛べるのか… 日本代表コーチが明かす“重要な修正”とは《伝説に残るNH金》
posted2022/02/07 11:55
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
JMPA
「歴史的」という枕詞が、全く大げさに聞こえない。北京五輪のスキージャンプ男子個人ノーマルヒルで、小林陵侑が日本勢の大会1号となる金メダルに輝いた。
ジャンプの個人金メダルは1972年札幌五輪70メートル級の笠谷幸生、1998年長野五輪ラージヒルの船木和喜以来で、24年ぶり3人目。しかも、2月6日は笠谷ら「日の丸飛行隊」が表彰台を独占した日から、ちょうど50年となる日だった。
北京の中心部から約200キロ離れた張家口の山あいで、世界に誇る日本のエースが表彰台の真ん中に立ち、飛び上がって喜びを爆発させた。
「いやあ、よかったのひと言。2本とも集中して、イメージ通りに動けたと思います」
「大荒れ」の展開の中で、異次元の大ジャンプ
気温マイナス12.5度。まつげも凍る寒空の下、周囲が暗闇に包まれた午後7時に競技は始まった。風向きはやや気まぐれだが強くはなく、小林が大舞台で何度も苦しめられた降雪もないコンディション。それぞれの実力が発揮されやすい展開になるかと予想されたが、始まってみれば「大荒れ」の展開だった。
ヒルサイズ106メートル。1回目。今季のワールドカップ(W杯)得点ランキングで上位につける強豪たちが、次々と失速した。W杯得点首位のガイガー(ドイツ)は96メートルで、まさかの21位。同3位のグラネル(ノルウェー)も97.5メートルにとどまり、22位。1回目の後半、佐藤幸椰が飛んだ何人か前辺りから、風向きが向かい風から不利な追い風に変わり、多くが苦しんでいた。
しかし、小林だけは異次元だった。力強い踏み切りから瞬時に飛行姿勢に移ると、追い風の中でぐんぐんと飛距離を伸ばしていく。その時点の首位を示す緑のラインを超え、テレマークをきっちり入れた後は両拳を派手に振り下ろし、満足感を示した。2位のP・プレブツ(スロベニア)とは6.2点差。飛距離に換算して約3メートル差のリードをつけたこのジャンプが、結果的に金メダルを大きくたぐり寄せることになる。
2回目もほぼ追い風の状況だったが
2回目も、油断はできなかった。2位のP・プレブツはソチ五輪銀メダリストで、小林と同様にジャンプ週間制覇やW杯総合優勝の経験者。3位のストッフはポーランドの英雄。五輪金メダル3つを誇り、こちらも小林と同じくジャンプ週間を4戦全勝で制したことがある、史上3人のうちの1人だ。
コンディションは、ほぼ追い風。最後に小林が飛んだ時もそうだった。