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「魔物がいると思うこと?ありますよね」記者が思い出す3年前の大失速… 金メダル候補・小林陵侑は北京で羽ばたくか《スキージャンプ》
posted2022/02/05 06:01
text by
長谷部良太Ryota Hasebe
photograph by
Maddie Meyer/Getty Images
あの日を思い出すといつでも頭に浮かぶのは、雪の中に消えていく背中だ。
オーストリアのゼーフェルドで開催された2019年3月の世界選手権個人ノーマルヒル。絶対的な優勝候補と目された小林陵侑は1回目でトップに立ちながら、2回目は30人中23位の大失速で14位に終わった。
競技後、小林は取材エリアを通ることなく日本チームの待機所へ向かった。筆者を含めた報道陣は大エースのコメントが取れず、大慌て。しばらく周囲を探していると、荷物をまとめて会場を後にしようとする姿を見つけた。急いで駆け寄り、「メディアが話を聞きたがっている」と伝える。小林は足を止めることなく、「後で話すんで」と答えた。筆者はそれ以上かける言葉がなく、ただうなずいて追いかけるのをやめた。
キャスター付きの荷物をゴロゴロと転がす音と、少し丸まった背中が雪の中で遠のいていった。
取材に応じられないほど落胆する小林を見たのは初めてだった。その原因は、順位というより試合内容にあったと思う。
無敵に近いシーズンを送っていたが
午後4時に始まった1回目は、冷たいみぞれの中で始まった。助走路の周辺では何人もの作業員がブロアーを手にし、滑りが悪くならないよう競技の合間に風を当てていた。最悪に近いコンディションの中、選手たちは集中を切らすことなく次々と空中に飛び出していった。
小林が、スタート台から静かに滑り出した。助走路の悪条件をものともせず加速し、力強い踏み切りから瞬時に美しい飛行姿勢を取る。ぐんぐんと飛距離を伸ばし、最長不倒の101m。約2カ月前、伝統のジャンプ週間で史上3人目となる4戦全勝による総合優勝を果たした実力を見せつけ、トップに立った。
2位との差は飛距離換算で約1m。安全圏とは言えなかったが、このシーズンで無敵に近い状況を見続けていた筆者は、取材エリアで小林の金メダルをほとんど確信していた。
2回目のジャンプが振るわなかった理由
2回目は、1回目の上位30人が得点の低い順に飛ぶ。その途中で、嫌な予感がした。最終ジャンパーである小林の出番が近づくにつれ、選手たちが次々と失速したからだった。激しい降雪によりブロアーでも雪を十分取り除くことができず、時間の経過とともに選手たちが記録する助走路のスピードは落ちていった。
1回目3位のイエラル(スロベニア)は、K点の99mを大きく下回る87mで27位。1回目2位のガイガー(ドイツ)も92.5mにとどまり、18位に沈んだ。