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小林陵侑はなぜ「ライバル失速の大荒れジャンプ台」でぶっ飛べるのか… 日本代表コーチが明かす“重要な修正”とは《伝説に残るNH金》 

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長谷部良太

長谷部良太Ryota Hasebe

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posted2022/02/07 11:55

小林陵侑はなぜ「ライバル失速の大荒れジャンプ台」でぶっ飛べるのか… 日本代表コーチが明かす“重要な修正”とは《伝説に残るNH金》<Number Web> photograph by JMPA

圧倒的な金メダル候補の前評判に応えた小林陵侑。今後の大ジャンプにも期待したい

宮平コーチが明かしてくれた“気づき”とは

 1回目のジャンプで多くのライバルたちが苦しむ中、1人だけ驚異的なパフォーマンスを見せられた要因は、膝の使い方にあったようだ。競技後、宮平秀治コーチが明かしてくれた。

 2月4日の公式練習後。ウエートトレーニングをしている最中、膝を曲げる際に位置が前に動いていることに宮平コーチは気づいた。

「今まではスクワットとかをやる時に膝を動かさないでいた。もしかしたらジャンプ台でもそれをやってしまっているんじゃないかと、話をした」と宮平コーチ。

 踏み切りで膝の位置が動くと、飛び上がる際に下半身の力を十分に使えなくなる。ジャンプ界で言うところの「スリップ現象」が起こり、飛距離が伸びないのだ。まだW杯で結果を出せないでいた頃、小林はよく「スリップ」していたが、「師匠」の葛西紀明からの教えも受けながら技術を身につけていった。

 過去の悪い癖が出ていたことを見抜いたW杯優勝経験を持つコーチと、言われたことをすぐに修正してしまう小林の才能がかみ合い、理想のジャンプを取り戻した。

 それを小林が確信したのが、翌日のトライアル(試技)だった。ヒルサイズを上回る106.5メートルの大飛躍。この瞬間、「自分のイメージが固まった」という。

 トライアル直後の予選は99メートルで4位だったが、揺るがなかった。それを決定づけたのが、本番直前に1回のみ認められたトライアルを回避したことにある。

 自身の調子を確認し、ジャンプ台の特徴を少しでもつかむために、どんな大会でも選手のほとんどは認められた回数分のジャンプを飛ぶ。ただ、中には義務ではないトライアルを飛ばないケースもある。W杯上位で争っていた頃の葛西がそうだった。

 葛西の場合、不安のある膝への負担を減らす狙いもあったが、「集中力を本番にとっておくため」とよく説明していた。トライアルとはいえ、一歩間違えば命の危険と隣り合わせの競技。本番同様の高い集中力が必要になり、もちろん体力も消耗する。飛ばないことによるメリットもあるのだ。

葛西に伝えた「ノリさん戦法です」

 北京五輪代表入りを逃した葛西は、テレビ局の解説者として取材エリアにいた。1回目のジャンプを終えた後、次のジャンプに向かう小林に声をかけた。

「1本目(トライアル)はどうしたの?」

 帰ってきた言葉に、葛西は思わず胸にこみ上げるものがあったという。

「『ノリさん戦法』です」

「弟子」は、師匠の背中から多くを学んでいた。

【次ページ】 葛西は「たまっている涙が全部出ましたね」

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