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《スキージャンプ》小林陵侑が3年前に語っていた“金メダル宣言”「自分がどうなりたいか、デカすぎてわからない」 

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折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byGetty Images

posted2022/02/12 11:03

《スキージャンプ》小林陵侑が3年前に語っていた“金メダル宣言”「自分がどうなりたいか、デカすぎてわからない」<Number Web> photograph by Getty Images

伝統のジャンプ週間でグランドスラムを達成した小林陵侑(19年1月)。スキージャンプ男子に24年ぶりの金メダルをもたらした男の“覚醒の瞬間”を振り返る

 トップ選手のジャンプを見るようになったことで彼らの技術が理解でき、自分でやってみたいことも明確になっていった。

「ヤンネ・バータイネンコーチに僕から提案し、助走姿勢を低くすることに取り組みました。前のシーズンに調子が良かったタンデ選手(ノルウェー)やカミルさんの助走は、見た目は違うんだけど低さは共通していると思ったんです」

 その狙いは助走速度を上げることではなかった。姿勢が低い分だけ踏み切りの瞬間に立つためのエネルギーが必要になり、ほんのわずかだが時間がかかる。「長い時間ジャンプ台にパワーを伝える」ことこそが陵侑とヤンネコーチの狙いだった。

 踏み切りは恐ろしく繊細な感覚を必要とする。つま先で蹴るのではなく、足の裏全体でジャンプ台を押し付けるように立ち上がることで力が伝わり、空中に出た瞬間もスキー板の先が下がらずに飛び出せるのだ。

“マキシマム”で飛び出すために

 それに加え、陵侑が提案した靴の踵を厚くするという試みも成功した。

「結果的には、スキー板の踵の部分につけるプレートを薄くしているので、踏み切りで立ち上がる際の角度は去年と違わない。でも飛び出した後、すぐに板が(身体の方に)戻ってくるという利点があるかな、と。7月のスロベニア合宿で試してみたら一発目でいきなり『当たった』(笑)。飛び出した時のスピードを全然殺さずに“マキシマム”まで行けるようになったんです」

 ジャンプ台の飛び出しの角度は10度ほど下を向いており、そのまま飛び出せばスキー板は下を向いて失速してしまうが、風圧でスキーの先端は上がってくる。先端が下を向きすぎても、上がりすぎても飛び出し時の減速につながる。そのため陵侑は靴の踵を高くすることで、同じ姿勢でも風圧によるスキー板の上りを若干抑え、飛び出し時の減速も抑えたのだ。

 さらに立ち上がってから素早く腰を前に移動させて空中姿勢を早く作り、その姿勢を維持したままで空中を進めるようになった。ジャンプでは飛び出してから前方に進み、落下し始めるポイントを「マキシマム」と表現するが、空中でスピードが維持できているとそのポイントが前進し、ランディングバーンから離れるため遠くへ飛べる。

 また、土屋ホームが毎年恒例にしている宮古島合宿では、チームとしてメンタルトレーニングの一環で脳波測定を取り入れた。これも陵侑にとってプラスに働いたという。

「変わらずに緊張はするんですけど、緊張を自分でコントロールするというか、和らげることが出来るようになったんです」

 そんな心身両面で成長を感じた上で、陵侑は今季のW杯を迎えたのだ。

【次ページ】 「団体の金メダルも獲りたい」

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