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《スキージャンプ》小林陵侑が3年前に語っていた“金メダル宣言”「自分がどうなりたいか、デカすぎてわからない」 

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折山淑美

折山淑美Toshimi Oriyama

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photograph byGetty Images

posted2022/02/12 11:03

《スキージャンプ》小林陵侑が3年前に語っていた“金メダル宣言”「自分がどうなりたいか、デカすぎてわからない」<Number Web> photograph by Getty Images

伝統のジャンプ週間でグランドスラムを達成した小林陵侑(19年1月)。スキージャンプ男子に24年ぶりの金メダルをもたらした男の“覚醒の瞬間”を振り返る

「自分ではトップ選手が出来ていたことを僕がやっとできるようになっただけなので、それで勝てるとは思いませんでした。でもW杯初戦で膝の状態が悪い中、3位になれた。1本目は飛び過ぎて立てずに手をついたけど、それでも他の選手より10m遠くに飛べたのは自信になったし、これなら近いうちに1勝はできるなって」

 その1勝をW杯2戦目で早くも手にすると、3戦目では2本目にひとりだけスタートのゲートを下げるという不利な状況ながらも、W杯ヒルレコードタイの147.5mを飛んで圧勝した。陵侑自身も「あれはカッコいい勝ち方だった」と笑う。

 これで完全に勢いに乗り、ジャンプ週間でグランドスラムという快挙を達成。陵侑は「それからのシーズンが長すぎることに絶望したし、自分でも燃え尽きてもおかしくないと思った」と振り返るが、最低順位が14位と大きく崩れることはなく、22歳の快進撃はシーズン終了まで続いた。

 28戦中13勝をあげて、日本人男子初となるW総合優勝のタイトルを獲得。勝利数は15勝した15-16シーズンのペテル・プレブツ(スロベニア)に次ぐ歴代2位だった。

「よく頑張ったなと思いますね(笑)。でも今も自分のジャンプにはあまり満足してないんです。たとえ2本めちゃくちゃいいジャンプを揃えて優勝できれば、すごく嬉しいけど、満足はしないというか。相手の選手が僕よりいいジャンプをしていても、風が良くなくて僕が勝った試合も多分あったと思いますし」

 充実感に浸ってもいいはずのオフシーズンなのに、22歳の言葉は野望に満ち溢れ、しっかりと先を見据えていた。

「……自分がこれからどうなりたいかというのも、デカすぎてわからなくて。だから、1戦1戦やっていくしかないですね。来季もまずは1勝が目標ですよ。北京五輪へ向けて、僕が今季一発やったから、強化費がジャンプに回ってくれないかなと思います。それでジャンプチームのレベルが上がって、個人はもちろん、団体の金メダルも獲りたい。北京まで3年ありますけど、3年といえば僕がW杯で年間『0点』だったシーズンから総合優勝するまでと同じ期間。だから誰かが出てくると思う。

 今は遠征費もなくて、格安航空券だから変更はできないし、座席も超狭い。サッカー日本代表やプロ野球の選手のように、スキー選手もビジネスクラスで遠征に行きたいですね」

 スポーツ史に新たな1ページを加えた22歳が、スキー界の牽引者になっていく。

『Sports Graphic Number』977号『スキー界の新伝説 小林陵侑「なりたい自分がデカすぎる」』より

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