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《スキージャンプ》小林陵侑が3年前に語っていた“金メダル宣言”「自分がどうなりたいか、デカすぎてわからない」
posted2022/02/12 11:03
text by
折山淑美Toshimi Oriyama
photograph by
Getty Images
ジャンプ週間グランドスラムにW杯個人総合優勝。日本人男子が誰一人成し遂げられなかった快挙を、今季覚醒した22歳の超新星が一気にやってのけた。急成長の理由と知られざる葛藤を本人が明かす。
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「最終戦のビショフスホーフェンでは、もう、すごい緊張でした。現地メディアの騒ぎ方も半端じゃなかったし、去年、カミル(・ストッフ)さんがグランドスラムを達成した時も、4試合目は様子がそれまでと全然違ったので『自分もやばいな』と。五輪で3つの金メダルを獲っている人でさえそんな緊張していたのに、僕に同じことが出来るのか……ちょっと怖かったですね。試合前は肩や首が痛くなって超音波治療をするほどでした。普段からずっと体に力が入り過ぎている感じもあったし、プレッシャーでやばくなっていたんでしょうね」
平昌五輪後のシーズン、スキージャンプで22歳の小林陵侑が世界を驚かせた。
昨年末の12月30日から年明け1月6日まで、ドイツとオーストリアを舞台に行われた伝統の「ジャンプ週間」で、4連勝のグランドスラム達成という新たな金字塔を立てたのだ。67年もの歴史を持つこの大会で、4戦全勝は01~02年のスベン・ハンナバルト(ドイツ)と17~18年のカミル・ストッフ(ポーランド)のみ。そこに昨季までは世界的にほぼ無名だった陵侑が名前を連ねたのだ。日本人の総合優勝も97~98年の船木和喜以来のことだった。
自信が確信に変わった4連勝
ジャンプ週間に突入する前から陵侑は絶好調だった。今季2戦目でW杯初優勝をあげるなど7戦4勝。突如ブレイクした新星は周囲の喧騒をよそにマイペースを貫き、現地メディアに「ネオジャパニーズ」とも呼ばれるなど、プレッシャーなど感じていないかのように見えた。
しかし、内心は違った。冒頭のコメントは、ジャンプ週間最終戦前の心境を振り返ったものだ。緊張に押し潰されそうになる姿が浮かぶ。だが試合では、2本目で全選手中最長の137.5m、テレマーク着地もきれいに決める完璧なジャンプで、逆転勝ちしたのだ。
「本当にいい勝ち方でした。もし1本目で1位だったら、2本目はさらに緊張していたかもしれない。それまでもW杯で勝っていたけど、あの4連勝で、初めて自分は力が付いているなと感じました。それまでは五輪明けでトップ選手が調子を上げ切れていなくて、調子がいい僕が勝っているという感じだった。でも、ジャンプ週間はそれだけでは絶対に連勝できない大会ですから」