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“藤井聡太五冠ブーム”の一方で…「リアルでもカジュアルに気軽に指せる場所があればいいな」将棋カフェの願いとは 

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茂野聡士

茂野聡士Satoshi Shigeno

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photograph bySatoshi Shigeno

posted2022/02/13 17:00

“藤井聡太五冠ブーム”の一方で…「リアルでもカジュアルに気軽に指せる場所があればいいな」将棋カフェの願いとは<Number Web> photograph by Satoshi Shigeno

将棋カフェ「COBIN」には数多くの棋士が訪れるなど、将棋普及の場として機能している(撮影時のみマスクを外しました)

「いい対局が指せました」

 撮影しているうちに対局は終わっていた。

 先崎九段が勝利したが、ワカナさんは攻めにいっていた(らしい)。「負けず嫌いです」と語るワカナさんはちょっぴり悔しそうながら、「長い将棋が苦手で、1手10秒でもちょっと長くて(笑)。直感で指すのが好きなんです。4秒がちょうど良いんです」と笑みをこぼしていた。その話を聞いて、先崎九段も「ワカナさんに挑戦して負けたお客さんもよく見ましたね」とニコニコと話し、こう続けた。

「別の運動をしているような感覚ですよ。指がとにかく動いていく感じという(笑)。そういった意味で普段の将棋とは違いますし、楽しんで指していますね」

ビール片手に指している人も

 感染症対策を万全にしながらも、気づけば数多くの愛棋家がこのスペースに訪れている。真剣勝負さながら盤面に向き合う2人組がいるかと思えば、ビール片手にのんびりと指している人も。さらには観る将と思しき女性が、バーカウンターに立つ店員さんから優しく将棋の手ほどきを受けてもいた。

「もともとこのカフェができたのは、社長が“カジュアルに将棋が楽しめる場があればいいな”、“将棋道場よりさらにカジュアルに気軽に指せる場所があればいいな”、と考えていたからだそうです」

 このように話すのは店長の奈良翔太朗さん。学生時代に千駄ヶ谷の将棋会館で将棋に親しんだ経験からもあって、誰もが気軽に楽しめる将棋スペースを作ってみたい――というおぼろげな思いがあり、休日に将棋イベントを主催していた。そんな時期に運営会社の社長と出会い、そこからトントン拍子で将棋カフェの運営者になったそうだ。

“観る将”や初心者でも楽しめる空間を

 ただ開店当初の1年目は社長さんも奈良さんも将棋カフェのノウハウが分からず悪戦苦闘し、もしかして初心者の方が入りづらくなっているのでは……と悩んだという。そこからは“観る将”であるスタッフにもバランスを取ってもらいながら、ちょうどいい空間づくりを意識し、今では初心者の方や女性の方も多く来店してもらえるようになったという。

「実際、藤井竜王がきっかけで“観る将”となって、そこから“ルールを覚えてみようかな”という方も来店します。もちろん強い人と真剣勝負で勝てた時もうれしいんですが、実は働いていて一番うれしい瞬間って、初心者のお客様に将棋のルールや指し方を教えた際に『わかりやすいです』、『今日だけですごく強くなった気がします』と言ってもらったり、リピーターとして来ていただけると本当にやりがいを感じます」

【次ページ】 藤井ブームで沸く今だからこそ……

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